太田述正コラム#4900(2011.7.30)
<終末論・太平天国・白蓮教(その2)>(2011.10.20公開)
 著者に対するインタビューでのやりとりもご紹介しておきましょう。
 「・・・欧米文化は基本的に終末論的だ。
 それは、最初の宣教師達が欧州の諸部族を改宗させるために北方にやってきた時に一緒についてきた。・・・
 千年王国主義は、十字軍やナチのジェノサイド的な激しさ(rage)から、<聖>フランシス(Francis< of Assisi。1181/82~1226年
http://en.wikipedia.org/wiki/Francis_of_Assisi
>)<(コラム#1736)>やガンディーの途方もない(extravagant)愛に至るまで、人間のふるまいの最も高貴から最も下卑(base)に至るものを引き出す。
 もし我々が千年王国主義を理解しなければ、我々は、我々の文化の最も偉大なる諸熱情の一つである重要な(critical)要素を理解できないだろう。
 それは、強力で蠱惑的だ。
 そして、確かに、それは、信じ難いほど破壊的(subversive)であり、信じ難いほど危険だ。
 19世紀の支那で、村の学校の洪秀全という教師が、キリスト教のいくつかの小冊子を土着の千年王国の様々な伝統とを融合させて太平天国軍(Taiping Heavenly Army)を編成した。
 洪が地上に天国を建設しようと戦ったことで、最高3,500万人が死んだ。
 しかも、これ<だけの死者が出たの>は近代兵器出現前だ!
 私としては、ナチとボルシェヴィキもまた、世俗的終末論運動と理解されるべきだと主張したいところだ。・・・
 注目せずにはいられない(compelling)、我々の時代たる現代の世俗的な終末論的予言は、地球温暖化(Climate Change)と全球的聖戦(Global Jihad)だ。
 世俗的とは、私は、天国的ビジョンや古の文献よりも経験的証拠に立脚したものを指している。
 しかし、これらはなお、破壊と再生という終末論的脈絡(thread)に従い、千年王国的運動に変態(transformation)する準備ができている(ripe for)。・・・
 神学者で1520年代のドイツの農民戦争の指導者だったトマス・ミュンツァー(Thomas Muntzer)<(注3)>は、教育程度の高い男だった。
 (注3)1489?~1525年。神学的には反ルターで親再洗礼派(Anabaptists)。「宗教改革史においては、ミュンツァーはしばしば無視される。プロテスタント史家達は、彼は短期間急進的であっただけだとする。ミュンツァーは、やがて社会主義者達によって、財の共有が実行される新しい平等社会を推進した点をとらえて、初期の階級闘争の象徴として取り上げられることになる。ミュンツァーの運動と農民叛乱は、フリードリッヒ・エンゲルスの・・・『ドイツ農民戦争(The Peasant War in Germany)』の重要な話題を形成した。」
http://en.wikipedia.org/wiki/Thomas_M%C3%BCntzer
 支那の洪秀全もまた、信じ難いほど知的能力が高く、天才少年だったが、科挙についに合格できなかった。
 <科挙は>不合格率が98%の試験だったが、これにうまくいかなかった後、彼は、終末論的信条を抱懐するに至った。
 全球的聖戦の指導者達もまた、金持ちの家族出身の教育程度の高い男達だった。
 そして間違いなく、全球的聖戦は、絶対的な終末論的運動だった。
 それは、イスラム紀元1400年であったところの、1979年に開始された。
 その年にイランで革命が起こったし、自分をイスラム教の救世主であるマーディ(Mahdi)と自分自身で宣言した男によって率いられた蜂起がメッカで起こった。<(注4)>
 (注4)「1979年11月20日、サウディアラビア人の説教者のジュハイマン・アル=オタイビ(Juhayman al-Otaibi)に率いられた200人の武装イスラム教反体制派が<メッカの>大モスク(Grand Mosque)を占拠した。彼らは、サウディアラビアの王室は、もはや純粋なイスラム教を代表しておらず、マスジッド・アル=ハラム(Masjid al-Haram(聖モスク(The Sacred Mosque))とカーバ(Kaaba)<神殿>は真の信仰者によって保持されなければならないと主張した。叛乱者達は、何万人もの巡礼達を人質とし、バリケードをつくって大モスク内に立てこもった。攻囲戦は2週間続き、数百人の死者が出・・・た。最終的な攻撃を行ったのはパキスタン軍だった。<フランス軍チームが武器、兵站、作戦面で支援した。>」
http://en.wikipedia.org/wiki/Mecca#Destruction_of_Islamic_heritage_sites
 (・・・アルカーイダは終末とかマーディへの言及は行っていないが・・・?)
 彼らは、世の終わりについて語るという意味で終末論的ではない。
 しかし、彼らが千年王国的であることは疑う余地はない。
 1990年代に、アルカーイダは、欧米的全球化の写し絵のように、世界を乗っ取ることができると決定した。
 彼らは、イスラム法(Sharia)をあらゆるところで樹立しようと夢見、それをいかに追求するかについて、まず古い世界を破壊することによって地上に天国を樹立しようとしたわけであり、積極的に終末論的だった。
 これは、超近代的テクノロジーを活用した前近代的運動だった。・・・
 (聖戦運動は、今後どれだけ続くと思うか。ナチスのような、他の千年王国/終末論的集団の寿命(lifespan)は比較的短かった。ソ連のボルシェヴィキが真に血腥く千年王国的であったのは約30年間にとどまる。<また、>今現在、イランの体制は深刻な問題に直面しているように見える。これだって息絶えるのでは?)
 そうかもしれないが、今日の世界と過去の状況とは大きな違いがある。
 インターネットのおかげで、聖戦推進者達(jihadis)は潜在的志願者のはるかに大きな貯水池からメンバーを集めることができる。
 世界には12億人のイスラム教徒がいる。
 全球的聖戦は、無限に自己生成する潜在的可能性を持っている。・・・」
http://bigjournalism.com/dkalder/2010/01/24/we-are-we-so-in-love-with-the-apocalypse/
 要するに、著者は、太平天国は、キリスト教そのものの終末論的/千年王国的要素と、<支那>「土着の千年王国の様々な伝統とを融合させ」たものである、と主張しているわけです。
(続く)