太田述正コラム#5198(2011.12.26)
<阿部泰隆論文を読む(その2)>(2012.4.12公開)
 そんなことより、論文の中身が大事だろうと言われるかもしれませんが、こういう手抜きが行われている論文は、中身だって相当問題があるに違いないのです。
 そもそも、阿部も、あの東大法卒であり、海外遊学経験しかありません。
 (ドイツの大学で「環境法」を3か月間教えたことになっていますが、同大学に滞在していた間に、「日本の」・・←想像だが・・環境法制を講じた、といった程度のことでしょう。)
 ということは、彼も短大卒相当である、ということであり、学問の基礎が身についていない可能性が高い、ということです。
 そのことが、阿部の法をとりまく社会事情への関心を希薄にさせてしまっているように、私には思われるのです。
 (話が本題からそれますが、法科大学院制度が導入された時に、法学部が廃止されなかったことに、私はかねてより懸念を抱いています。
 法科大学院入学者の大部分(7割)は法学部出身である
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B3%95%E7%A7%91%E5%A4%A7%E5%AD%A6%E9%99%A2
ことから、これではいつまで経っても、日本の法曹の短大卒相当状況に大きな変化が望めないからです。)
 具体的に見て行きましょうか。
 
 新潟地裁判決を受け、防衛庁内局は件の三佐に賠償金を求償しようとしたが、海幕は反対し、海幕の首席法務官付法務室N一等海佐が「国賠法上の責任と求償権について」という内部文書をを2006年(平成18年)9月27日に作成し、上司である首席法務官一等海佐に提示し、了承を得、この文書を元に平成18年9月28日に海幕法務室員(三等海佐)が防衛庁(当時)内局の政策評価官付に説明し、その説明の模様を同三等海佐が2006年(平成18年)10月2日付で文書にまとめた(10~11、16)ところ、阿部は、この10月2日付文書の出来が悪いと非難しています。
 しかし、非難する前に、阿部は、まずもって、どうして、この文書が「発見」された経緯が異常だと思わなかったのでしょうか。
 
 この文書については、2008年に開示請求が行われ、その時、防衛省は、その存在自体を否定したのですが、2010年12月に、内閣府の情報公開審査会がその存在を確認して防衛省に開示を命じた、という経緯があります。(16)(その後、実際にいつ開示されたかは不明。)
 しかし、2008年に開示請求を行った人は、どうやってこんな内部文書の存在を知ったのでしょうね。
 こんな文書がリークされるようでは、仕事なんてやってられないのではないかと私は危惧の念を持つのですが・・。
 それを解く鍵は、開示請求の対象たる文書が、内局に説明された2006.9.27付のものではなく、2006.10.2付の海幕内部文書である点にあります。
 私は、内局の政策評価官関係者がリークした、とにらんでいます。
 だからこそ、そのことがバレバレの、内局への説明文書ではなく、(それとほぼ同一で、別途政策評価官関係者が入手していたと考えられる)海幕内部文書をリークした、と思われるのです。
 ではどうして、内局の関係者は、こんなリークを行ったのでしょうか。
 そのことは、内局が件の三佐に求償したことの異常さ、そして、阿部がそのことを異常だと思っていないことと関係してきます。
 ここで、国家賠償訴訟と求償権について、阿部自身の言に耳を傾けてみましょう。
 「国家賠償訴訟において公務員の故意又は過失の有無が判断されるのは、国・公共団体の責任の有無を判定するためであって、故意か重過失か、軽過失かは認定する必要がなく、判断されても、傍論に過ぎない。しかも、当該公務員は・・・国家賠償訴訟の当事者ではない。したがって、・・・国家賠償訴訟で、公務員に故意又は重過失があると判断されても、その効力(既判力)は当該公務員には及ばないから、当該公務員は、求償訴訟においてそれを争うことができる。しかし、逆に・・・<国家賠償>訴訟において当該公務員の重過失を認定していなくても、求償訴訟において国又は公共団体は当該公務員に重過失があると主張することもできる。」(17)
 実際の運用を見てみると、平成19年と平成20年の前半という「1年半の間に国家賠償訴訟が・・・1,350件も提起されているのに、任用令がわずか・・・29件、約2%である。しかも、その中で求償したのは、わずか2件・・・平成19年<の>検察事務官が被害者の被害感情等について虚偽の電話聴取書を作成したとするもの(5万円)<と>・・・平成20年<の>旧防衛庁の職員が個人情報を開示したとするもの(12万円)・・・という・・・少な<さである。>」(28~30)
 「旧防衛庁の職員が個人情報を開示したとするもの(12万円)」は、言うまでもなく、新潟訴訟判決を受けてのものです。
 この判決は、東京訴訟判決とは違って、件の三佐の故意を認定していません(10)。
 にもかかわらず、「防衛省は求償権を行使した。・・・防衛省内局<は海幕>法務室の理論を採用せず・・・判決確定後・・・三佐に<東京訴訟判決を受けてのものに続き、件の>三佐に再度求償した」(16、24)のです。
 以上から分かることは、(この1年半に関し、ということは恐らくそれ以前から、)防衛省は、全省庁の中で例外的に求償権の行使を行っている、ということです。
 阿部にしてみれば、求償権の行使が「あまりにも少ない・・・これでは国家賠償訴訟も機能していないし、まして求償権は機能していない」(30)中で、防衛省は立派なものだということになるのかもしれませんが、防衛省は、いや、防衛省内局と各自衛隊との関係は、同じ組織とは思えない異常なものである、防衛省は組織の体を成していない、とどうして彼は考えないのでしょうか。
(続く)