太田述正コラム#0105(2003.3.9)
<アングロサクソン諸国の情報共有>

 前回のコラムを読んだ読者の中には、キリスト教も宗派によって対イラク戦観が異なるのであれば、アングロサクソン同士であるとは言っても国益を完全に同じくはしない米国と英国の対イラク政策が一致する保証はないのではないか、という疑問を持たれた方もおられることでしょう。
 確かに、両国は米独立戦争を戦い、1812年の米英戦争を戦った間柄です。
 他方皆さんご承知のように、第一次世界大戦と第二次世界大戦は、米英両国がアングロサクソン文明の理念を掲げて手を携えて戦った典型的な事例です。
 しかし、第二次世界大戦以降を見ると、1950-53年の朝鮮戦争では旧英領諸国であるカナダ・オーストラリア・ニュージーランド・南アフリカ・インドを引き連れて英国は米国とともに戦った(http://www.korean-war.com/。3月9日アクセス)ものの、1956年のスエズ戦争で英米両国は激しく対立しましたし、1964-73年のベトナム戦争(http://servercc.oakton.edu/~wittman/chronol.htm。3月9日アクセス)ではオーストラリアは参戦した(http://www.atimes.com/atimes/Front_Page/EB19Aa01.html。2月19日アクセス)ものの(米国のベトナム戦争を支持しつつ)英国は参戦を見送り(http://www.guardian.co.uk/Iraq/Story/0,2763,909778,00.html(3月8日アクセス)。スエズ戦争についても同じ)、逆に1982年のフォークランド戦争では(情報・兵站面で英国を積極的に支援しつつ)米国は参戦しませんでした(http://met.open.ac.uk/group/cpv/fi/FAQ.htm#6。3月9日アクセス)。

 とまれ、米英両国がともに対イラク戦を戦った1991年の湾岸戦争以来のこの十年来の米英両国の国際政策はほぼ完全にシンクロナイズしているように見受けられます。

 それは、第二次世界大戦中に培われ、戦後に公式なものとなった米英両国の国際・軍事情報共有体制の下で、(グローバリゼーションの進展もあり、)次第に両国の国際情勢判断が収斂するに至ったからだと私は考えています。その結果が対イラク戦をめぐる現在の米英両国の(若干のニュアンスの相違ないし役割分担はあるものの)水も漏らさぬ連携協力ぶりなのです。

 米英両国の国際・軍事情報共有体制は、1948年の英米安全保障協定(UKUSA=UK-USA Security
Arrangement)に根拠を置いています。しかしこれは秘密協定であり、現在でも米英両国政府はその存在を含め、一切語ろうとはしません(英国のストロー現外相の議会答弁(http://www.parliament.the-stationery-office.co.uk/pa/cm200102/cmhansrd/cm020702/text/20702w22.htm(3月6日アクセス)参照)。
 この英米安保協定に基づいて最初に実施されたのが通信傍受(Signal Intelligence=SIGINT)をめぐる協力であり、米、英、加、豪、ニュージーランドのアングロサクソン5カ国が全世界の軍事無線通信を分担して傍受し、その結果を米国が集約し、その他の4カ国にフィードバックするシステムが構築されました(http://nasaa-home.org/history/his6.htm。3月6日アクセス)。その傍受基地は日本にも台湾にも設置されています。日本や台湾の場合は、ホスト国が基地設置維持経費を負担し米国と傍受情報を共有することとされていますが、アングロサクソン4カ国のように、米国からグローバルな通信傍受情報のフィードバックを受ける立場にはありません(台湾についてはhttp://www.atimes.com/atimes/China/EC06Ad03.html(3月6日アクセス)による。日本については、台湾のケースから類推した。なお、後出の潜水艦航走音聴音システムに関しても、日本は通信傍受システムのケース同様、情報は吸い上げられるだけでフィードバックを受けない立場であろうと思われる)。

 その後、この協力体制は潜水艦航走音聴音システムや衛星位置措定・追跡システムを取り込み、更にIT時代の現在ではEchelonという、全世界の(非軍事を含めた)EメールとFAXのやりとりを傍受するシステムを取り込むに至っています(http://archive.aclu.org/echelonwatch/faq.html。3月6日アクセス)。(潜水艦航走音聴音システムやEchelon基地もまた日本(Echelonについては三沢の米軍基地内)にあると言われている。例えばhttp://village.infoweb.ne.jp/~fwgj5057/sub.21.2000.8.13.6.htm(3月6日アクセス)参照。)このシステムでは、英国が米国の一般市民、そして米国が英国の一般市民相互のメールやFAXのやりとりを傍受し、その「成果」を交換することによってそれぞれの国の国内法の脱法行為まがいのことが行われていると指摘されています(http://www.geocities.com/northstarzone/SPIES.html。3月9日アクセス)。
 とりわけ米英両国の国際・軍事面の協力体制は緊密であり、両国の諜報機関の相互協力ぶりは同じ国の機関かと思われるほどであり、両国は核兵器に関する情報も共有し、米国は英国だけに潜水艦搭載大陸間弾道ミサイルを提供しているほか、英国だけに核・非核両用の戦略兵器であるトマホーク巡航ミサイルを提供しています(いずれも周知の事実だが、トマホークについてはhttp://www.church-of-god.org/cogn/cn9907/newswdef.html(3月6日アクセス)による)。

 ここからうかがえることは、米国の同盟国が三層構造をなしているということです。
 つまり、米国から見て英国との関係が最も密接であり、その他のアングロサクソン三カ国がそれに次ぎ、日本は台湾(・・タテマエはともかく、台湾が現在でもなおれっきとした米国の同盟国であることが分かりますね・・)等と並ぶジュニアメンバーでしかないわけです。

 ジュニアメンバーでしかないにもかかわらず、在日米軍の駐留経費を半分以上負担し、来るべき対イラク戦に(情報も共有しないまま条件反射的に、英国やオーストラリアに続いて)真っ先に賛意を表しているわが日本のなさけない姿を皆さんはどう思われますか。日本は(私見によれば)アングロサクソンと理念を共有する本来的同盟国であるにもかかわらず・・。