太田述正コラム#5909(2012.12.17)
<皆さんとディスカッション(続x1752)>
<ネットカフェの住人>
 選挙は自民が圧勝し<た>な。
 自民は前回ぼろ負けしたときの政党支持率とそんなに変わらないのに結果はまるで違うというのは選挙ってわからんもんだな。
http://www.realpolitics.jp/research/
<bPZ3ZRHO0>(「たった一人の反乱」より)
 また自公政権か。公明党と組むことを前提にしている自民党は、本当に堕落した。
 昔は創価学会を毛嫌いする議員もいたのにねー。
 憲法改正を唱えながら公明党と連立する自民党議員の偽善ぶりが、ひどいわ。
<5bxweiuV0> (同上)
 自・公で320議席<超。>
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20121217/k10014228791000.html
 最悪の結果に終わりましたね。
 太田さんが言ってた事の大半が机上の空論に終わってしまった・・・。
 安倍が安全保障政策を実現させる為に公明切って維新の会と組んでくれるのを願ってみましょうか?
<TKpmV8Lm0>(同上)
世間は自民・公明で320議席獲得したことに浮かれてるし・・・。
 結局何も変わらない感じがするなぁ。
<ew2rxYXB0>(同上)
 事ここに至り、最善の展望は何なのかな。
 昨日のディスカッション、自民の大躍進に引っ掛けて、「日本でも歴史が後退する事」がある可能性を仄めかしてたけど・・・。
 つまり、予想外の事が起こらない限り、歴史が後退するって事だろうかね。
<GfeNf0uB0>(同上)
 へこむなーアメリカが徹底的に衰退しなきゃ日本の独立は無いのか・・・。
 衰退が止まらない以上近いうち必ず日本の独立は果たされると信じてるけどね。
<MXiloNq/0>(同上)
 こいつ<(=ANMLe7+s0(コラム#5905))>のせいで自民が勝ったな w。
<太田>
 ew2rxYXB0クン、あっは。その点に関しては「引っ掛けて」なんかいないよ。
 また、首相が進めた外交・安全保障政策が後退するようなことは、少なくともありえない。
 原子力・宇宙政策における軍事タブーの払拭は自民だって賛成した・・確認はしてないけど・・んだし、武器輸出禁止政策の大幅緩和も、緩和した結果として複数の外国に「軍事」援助を既にコミットしちゃってるからねえ。
 さてと、今回の選挙結果は、中共当局の辛勝、野田首相の惜敗だったことは確か(コラム#5905参照)だが、日本の「独立」に向けて、更に一歩前進した、と言っていいんじゃなかろうか。
 その理由を説明しよう。
 第一に、今度の選挙結果の詳細な分析から見えて来る、安倍新政権の脆弱性だ。
 まず、公明党の「健闘」は、投票率が戦後最低だった
http://www.asahi.com/senkyo/sousenkyo46/news/TKY201212160112.html
結果に過ぎず、同党(=創価学会)の長期退潮傾向は変わっていないし、自民党との議席差が巨大であることから、その発言力は高くあるまい。(すぐ後の記事も参照。)
http://www.asahi.com/politics/update/1217/TKY201212170020.html
 そこで、肝心の自民だが、「比例得票数<は>・・・1662万票で、05年の2588万票を大きく下回り、<民主党に政権を譲り渡した>09年の1881万票にも及ばなかった。得票率も27.6%で09年の26.7%とほぼ変わらなかった。」
 というわけで、「日本維新の会<が>・・・比例の得票<で>1226万票<と>民主党を大きく上回った<(ちなみに、>みんなの党も524万票と前回の1.7倍に比例の得票を伸ばし<た)>・・・」以上、下掲の石破発言からもうかがえるように、自民党は、維新に配慮した政局運営をせざるをえない、と言っていいんじゃないか。↓
 (以上、「」内は、http://mainichi.jp/select/news/20121217k0000e010329000c.html による。)
 「自民党の石破茂幹事長は16日夜・・・安全保障分野での維新との連携について「お話しできる部分がある」と踏み込み、公明党は今後、自民党と維新の接近に神経をとがらせながらの政権運営を迫られる可能性が出ている。」
http://senkyo.mainichi.jp/news/20121217k0000m010287000c.html
 幸い、維新の方もやる気十分だ。↓
 「<維新は、>安倍政権とは「政治案件で是々非々でいく」(石原氏)方針。改憲論議や教育改革など政策的に重なる分野は協力しつつ、「国土強靱(きょうじん)化」といった公共事業重視の政策は「古いばらまき」(幹事長の松井一郎大阪府知事)として反対する構えだ。ただ、自公両党が少数の参院で維新は3議席しかなく、ねじれ国会での主導権は期待できない。来年の参院選に向けた態勢づくりが急務だ。・・・」
http://www.asahi.com/senkyo/sousenkyo46/news/TKY201212170046.html
 (なお、ここでも繰り返しとくけど、憲法改正なんてのは不可能だからね。
 自民党と維新とで参院でも3分の2を確保するためだけでも、うまくいっても後2回の参院選を経なければならないからだ。)
 第二に、やはり今度の選挙の結果だが、(ボク個人としてとりわけ欣快至極なんだけど、)かつての自民党のダーティ「ハト」派の象徴たる、小沢一郎(吉田派
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9C%A8%E6%9B%9C%E3%82%AF%E3%83%A9%E3%83%96
の末裔)と加藤紘一(池田派
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%AE%8F%E6%B1%A0%E4%BC%9A
の末裔)の完全な失権だ。↓
 「・・・<今回の「未来」の惨敗は、>選挙に強いという「小沢神話」の崩壊を印象づけるとともに長く永田町を支配した「小沢時代」の終わりを知らしめた。・・・」
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/121217/elc12121707300242-n1.htm
 「自民党の加藤紘一元幹事長が山形3区で、無所属新人の阿部寿一氏に敗れ、落選した。加藤氏は党の定年制のため、比例代表に重複立候補していない。・・・」
http://www.nikkei.com/article/DGXNASFK16021_W2A211C1000000/
 何が言いたいかというと、(小沢が自民党を飛び出したのはずっと前だが、)自民党内の「ハト」派の勢力は、安倍が前回総理を務めた時に比べても更に弱体化しているのがはっきりしたってことだ。
 第三に、安倍にとっては、2度目の首相だってことだ。
 今度こそ、前回の汚名を挽回しつつ、何が何でも歴史に名を残す業績を残さなきゃならない。
 となると、祖父岸信介のDNAが、彼を「独立」に向けて駆り立てる可能性は排除できないだろう。
 こういった見方を、上智大学准教授の中野晃一
http://spysee.jp/%E4%B8%AD%E9%87%8E%E6%99%83%E4%B8%80/1208282
もしている。↓
 <<第二の話とも関連するが、>現在の自民党の長老連中は「タカ」派ばかりであり、<トロイこともあって>長老の言うことを聞くからこそ彼らに覚えがめでたい安倍は、「タカ」派路線を進めざるをえないってさ。↓>
 ・・・Koichi Nakano, a political science professor at Sophia University in Tokyo, predicted Abe would come under pressure from his own party to implement his hawkish agenda. “During his campaign to lead the LDP, he said he regretted moderating his stance on China the first time he was prime minister,” Nakano said. “This is his last chance, so will he want to go down as someone who moderates his views when in office, or as a conviction politician? My feeling is that he’ll go for the latter.
 ”The right wing of the LDP installed him as party leader, and I don’t think he has the authority or the personality to keep a grip on them. They chose him because they know he’s easy to manipulate.”・・・
http://www.guardian.co.uk/world/2012/dec/16/japanese-hawk-victory-fears-tension
( http://www.latimes.com/news/nationworld/world/la-fg-japan-elections-20121217,0,411744.story にも中野の言の短い引用が出て来る。)
 
 要するに、維新の今後の頑張り次第で、意外に日本の「独立」は近いかもしれないってことさ。
 ああもう一つ、前回みたいに安倍が中途で突然政権を投げ出すようなことがなければ、という条件付だけどね。
 最後に、海外の反応を紹介しておこう。
 まず、中共当局だが、以下の記事からも推測できるように、安倍政権誕生を歓迎しており、尖閣での攻勢を、さしあたり、手控えることになるだろう。↓
 「・・・12月<初頭、>・・・中国国際問題研究所の晋林波研究員はこう発言した。 「実績と中国とのご縁を考えれば、次の日本のリーダーに小沢一郎氏、または安倍晋三氏がなれば、中日関係の改善は期待できるのではないかと考えている」。彼はその理由について「前回も安倍氏は、首相になる前はタカ派的な発言を繰り返したが、政権発足後は靖国神社参拝問題などで非常に柔軟な対応をとった」と説明した・・・」
http://www.nikkei.com/article/DGXNASFK1601D_W2A211C1000000/?dg=1
 「・・・中国現代国際関係研究所日本研究所の馬俊威副所長は開票前の中国メディアの取材に対し、・・・安倍氏は・・・日本企業の中国における利益を守るため、経済面などで温和な対中政策を取る可能性がある。・・・」と語った。」
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/121216/elc12121621420147-n1.htm
 安倍政権誕生歓迎のウラには、戦後長きにわたって中共当局が自民党議員達(その2世、3世を含む)と人脈、金脈を通じて築き上げてきた緊密な関係がある。(典拠省略)
 それにひきかえ、韓国(朝鮮)には、国際情勢分析能力が(1900年前後と同様)欠如している感が否めない。
 「日韓関係、懸念の声広がる 自民の竹島公約めぐり 韓国・・・」
http://www.asahi.com/international/update/1216/TKY201212160122.html
 「・・・メディアは、中国の習近平新指導部との摩擦<が>避けられないと見通している。」
http://sankei.jp.msn.com/world/news/121217/kor12121708240000-n1.htm
 <後段こそ正しいが・・。↓>
 「先日、韓国の新聞に「極右・野田が極右に警告」という記事が東京発で出ていた。・・・
  野田首相はこれまで「領土問題では不退転の覚悟」を語り、武器輸出三原則の緩和や集団的自衛権の行使容認検討などを主張していたのに、選挙を意識し姿勢を変えているというのだ。・・・」
http://sankei.jp.msn.com/world/news/121124/kor12112411040003-n1.htm
 英国の専門家の見解も中共当局と同じだ。↓
 ・・・”For all his nationalist credentials, I suspect Abe will be more pragmatic,” said John Swenson-Wright, senior consulting fellow for Asia at Chatham House. “If he’s in this for the long game and wants to last longer as prime minister than he did the first time, he certainly has the motivation to be more pragmatic.”・・・
http://www.guardian.co.uk/world/2012/dec/16/japanese-hawk-victory-fears-tension
(前掲)
 米国だが、まず、右派のWSJから。
 これも同工異曲だな。
 ・・・If Mr. Abe follows through on these largely symbolic moves, relations with much of Asia will deteriorate. But it is more likely they are signals that he intends to stand up for Japan’s interests. During his 2006-07 premiership, he followed a pragmatic path, and relations with China were cordial following a visit to Beijing. The Japanese public is uninterested in foreign adventures and deeply attached to Japan’s postwar self-image as a peaceful nation. ・・・
http://online.wsj.com/article/SB10001424127887324407504578183224060124356.html
 以下は、すべて左派だ。
 ロサンゼルスタイムスも上と同じだ。↓
 ・・・Many political analysts・・・believe that Abe’s supporters will drag him back to the center after the election, with economic concerns trumping foreign relations.・・・
http://www.latimes.com/news/nationworld/world/la-fg-japan-elections-20121217,0,411744.story (前掲)
 ワシントンポストも同じだ。
 むしろ注目すべきは、同紙が、(本来の意味での)ホームページに、日本での選挙結果についての記事を載せなかったことだ。
 かほどさように、日本の存在感が低下してるってこと。寒いー。↓
 ・・・Pundits say that Abe, if he wants to strengthen public support, will place his controversial military goals on the back burner and focus on the economy, an area in which his policies align far more with the priorities of the public.・・・
http://www.washingtonpost.com/world/asia_pacific/opposition-party-wins-japanese-parliamentary-vote/2012/12/16/354b25e0-4780-11e2-ad54-580638ede391_print.html
 NYタイムスも同じだが、邦字紙が報じていないことまで書いている。↓
 <既に安倍は密かに中共に密使を派遣しているんだとよ。↓>
 ・・・Party members said that even before the election, Mr. Abe’s camp had been quietly reaching out to Beijing to ease tensions.・・・
Party members said that even before the election, Mr. Abe’s camp had been quietly reaching out to Beijing to ease tensions.
http://www.nytimes.com/2012/12/17/world/asia/conservative-liberal-democratic-party-nearing-a-return-to-power-in-japan.html
 つまり、ボクがコラム#5905で述べた見解を裏付ける見方が日本でも世界でも大勢を占めてるってことだ。(ボクのような露骨な言い方をした論者はいないけどね。)
 本日ボクが書いたことは、一見、コラム#5905で書いたことと相反するように思うかもしれないが、あくまでも、選挙結果を詳細に検討した結果の見解の弁証法的発展である、と受け止めてくれたまえ。
<nya98sdC0>(「たった一人の反乱」より)
 太田さんのいう
自民党の安保=吉田ドクトリン
を世に広めるには舞台を2ちゃんからリベラルの多い、はてブに移してもいいんでないか?
 どうも、2ちゃんで多勢を占めてるネトウヨってのは「謎の盲信」みたいなのが強すぎる。
 理屈では通じないように思うんだよね。
 太田さん自身、左派のほうが自分の意見が受け入れられやすいって言ってなかった?
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太田述正コラム#5911(2012.12.17)
<欧米政治思想史(続)(その1)>
→非公開