太田述正コラム#5993(2013.1.28)
<皆さんとディスカッション(続x1793)>
<コラム#5991の訂正>(ブログは訂正済)
何となく記憶がありませんね。→何となく記憶がありますね。
存在していない存在→存在していない物
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<太田>(ツイッターより)
 「科挙に受かれば平民でも出世できた朝鮮王朝時代 …」
http://www.chosunonline.com/site/data/html_dir/2013/01/27/2013012700098.html
 こいつは興味深い。いかに受験科目の内容が重要かがなおさら分かろうというものだ。
 儒教は支那でも朝鮮でもエリートの精神を硬直化させてしまったってこと。
 科挙を導入しなかった日本は正解だったわ。
<べじたん>
≫なんで、べじたんさんはお持ちなんです?≪(コラム#5991。太田)
 持ってませんよ。研究の書籍化なのは明らかだっただけです。
第Ⅲ部 日本型システムの価値的基盤-対人関係観の国際比較調査の分析から
1 「間人主義」・「個人主義」調査の概要 濱口 惠俊
2 対人関係観の国際比較-傾向分析 濱口 惠俊、岡本 裕介
3 「間人主義」・「個人主義」の統計的分析 金児 曉嗣、岡本 裕介
4 欧米人は果たして「間人主義」といえるか-アンケート調査結果・分析への疑問 久慈 利武
〔人間関係観についてのアンケート・質問紙〕
≫関心のある方にもっと調べていただいて、どこか間違っていないかを検証して欲しいのですが、私の考えはこうです。≪(同上)
 典拠は?→1981年の政府答弁書、ではなくて、1981年の政府答弁書が正しいとする典拠は?、という意味でしたか。それならば、北大西洋条約の5条でいう締約国が、まさしく、「自国と密接な関係にある外国」のことではないですか、という回答になるのでしょうけど、集団的自衛権が及ぶ範囲を限定する議論は遅れてるってことですよね。
→「北大西洋条約の5条でいう締約国が、まさしく、「自国と密接な関係にある外国」のこと」(?!)については、言いたいことが一杯あるけれど、省略します。(太田)
 「NATOを取り巻く環境は大きく変化している。現在、軍事同盟としてのNATOにとって欧州加盟各国に対する直接の軍事的脅威というものはもはや想定しづらく、NATOが現在抱えている任務は、「非5条任務」と呼ばれる、紛争解決やテロ対策などを目的とする域外への展開である。」
http://www2.jiia.or.jp/RESR/column_page.php?id=5
→NATOによってコソボに対して行われたような人道的軍事介入という、集団的自衛権の行使とも異なるもう一つの軍隊「任務」(「非5条任務」)があることにご注意。
 国内においてのみならず、国外においても、軍隊は本来何にでも使えるものであり、また、そうでなければいけないのですよ。(太田)
 ところで、米国防省の用語集には↓と書いていました。(other designated non-US forcesが訳しにくいのですが。)
 「Collective self-defense is the act of defending other designated non-US forces. Only the National Command Authorities may authorize US forces to exercise the right of collective selfe-defence.」
 集団的自衛権とは、米軍以外で指定された外国の軍隊を守る行為。大統領と国防長官のみが、米軍に集団的自衛権の行使させる権限を持つ。
http://books.google.co.jp/books?hl=ja&id=Ap_En_k7r9AC&q=collective+self-defense#v=onepage&q=collective%20self-defense&f=false
→「指定された」はこの場合「特定の」と訳す方がいいのではないでしょうか。
 要するに、「事前に指定された」という意味ではないことをはっきりさせた方がいい、ということです。(太田)
また、International Law: A Dictionary(2005)には↓と書いていました。
 「It is an inherent right of a state or group of states to come to the
defense of another state against which an armed attack has occurred,
until the Security Council has taken measures necessary to restore and
maintain international peace and security」
 集団的自衛権とは、国連安全保障理事会が国際的な平和と安全を回復し維持するのに必要な措置を取るまで、武力攻撃された他国を守るための一国家または国家群の固有の権利。
http://books.google.co.jp/books?id=NR7mFXCB-wgC&lpg=PA414&hl=ja&pg=PA414#v=onepage&q&f=false
<太田>
 私にはこういった文章に「密接な関係のある」に類する文言が登場した記憶がないのですが、そのことがご紹介いただいた二つの文章からも分かりますよね。
<やへがき やくも>
 東洋大学国際地域学部の西川吉光教授 (1978年防衛庁入庁)
http://www.rds.toyo.ac.jp/~nishikwa/
http://www.sbrain.co.jp/keyperson/K-5636.htm
の論文には、集団的自衛権の根拠である、他人のための正当防衛権についてつぎの様な記述があります。
『国内法の正当防衛の観念は、国によって異なり、特に英米法では、他人のための正当防衛は、保護者、近親者に限定されている』
http://rdarc.rds.toyo.ac.jp/webdav/frds/public/kiyou/0708/tiiki/0803/nisikawa.pdf
 集団的自衛を「自国と密接な関係にある国」に対する武力攻撃からの防衛と解するのは、ひょっとすると英米法的な解釈かもしれません。
<太田>
 西川君は、防衛庁時代に私の部下であったことがあり、大変懐かしいですね。
 さて、西川論文のくだんの箇所には典拠が付けられていません。
 一般論では、以下のとおりであり、(正当)防衛に関する英語ウィキペディアには、他人の防衛に関してその種の限定は付されていません。
The rules are the same when force is used to protect another from danger.
http://en.wikipedia.org/wiki/Right_of_self-defense
 イギリス(法)における(正当)防衛に関する英語ウィキペディアでも同様です。
one has the same right to act to protect others as to protect oneself
http://en.wikipedia.org/wiki/Self-defence_in_English_law
 従って、西川君の主張には大いに疑問符が付きます。
 では、国際法学者はどう言っているのでしょうか。
 西川君は次のように主張しています。
 「集団的自衛権の本質については、三つの立場に分けることができる。第一は、集団的自衛権を個別的自衛権の結(競)合(個別的自衛権の共同行使)と捉えるバウエットらの立場である。第二は、ケルゼン等が主張する共同防衛権論で、一国が武力攻撃を受けて個別的自衛権を行使しているが、そのための武力が不十分である場合に、他国がこれを補完し援助するための措置として集団的自衛権を捉える。第三は、自己防衛の側面を重視し、他国に関わる自国の重要(死活的)な法益を防衛する権利と解する立場である(ラウター・パクト等)。他国に対する武力攻撃であっても、それが自国の重要な法益を脅かす場合には自衛権の行使を認めることが集団的自衛権の意義であり、第一説と同様、集団的自衛権は自己防衛という立場をとるが、個別的自衛権の同時共同行使ではなく、独自性を持つ概念として集団的自衛権を理解する。」
 まず、バウエット(D.W.Bowet)については、日本語のはもとより、英語のウィキペディアすらない人物ですから、論じるには値しないでしょう。
 ケルゼン(Hans Kelsen。1881~1973年)は、「オーストリア出身の公法学者・国際法学者。・・・ケルゼン家はウクライナ・・・からチェコに移住した東欧系ユダヤ人の家系である。・・・1940年になると彼はアメリカへ移り、1942年にはハーバード・ロー・スクールで・・・講義を担当した。1945年、彼はカリフォルニア大学バークレー校で政治学の教授になった。・・・ケルゼンの主な業績は近代のいわゆる「ヨーロッパ型憲法モデル」の再検討である。第一にはオーストリア第一共和国で実施され、ドイツ連邦共和国・イタリア・スペイン・ポルトガルなどが続き、後には中欧から西欧にかけての国でも彼のモデルは採用された。ケルゼンが率いたオーストリア憲法裁判所は、多くの国の特別憲法裁判所のモデルとなった。」という人物です。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8F%E3%83%B3%E3%82%B9%E3%83%BB%E3%82%B1%E3%83%AB%E3%82%BC%E3%83%B3
 また、ラウターパクト(Hersch Lauterpacht。1897‐1960)は、「オーストリア出身のイギリスの国際法学者。ウィーン大学,ロンドン大学に学んだ後ロンドン大学助教授,1938年からケンブリッジ大学の教授となり,55年国際司法裁判所判事となって大学を去った。ドイツ法学の堅固な理論とイギリス流の実証主義を調和した独特の学風をもって知られる。最初の著作で私法原理がいかに国際法に類推導入されてきたかを論じ(1927)・・・た。」
という人物です。
http://kotobank.jp/word/%E3%83%A9%E3%82%A6%E3%82%BF%E3%83%BC%E3%83%91%E3%82%AF%E3%83%88
 ケルゼンとラウターパクトについては、私も知っており、二人とも(欧州出身ではあるものの、)アングロサクソン世界で活躍した碩学ですが、上記経歴からも分かるように、ケルゼンの方が、ラウターパクトより、多大な影響を現実世界に与えた法学者であることがお分かりいただけると思います。
 以上だけからでも、エイヤッ的には、集団的自衛権についてもケルゼンの説が一番権威がある、と言えそうです。
 とはいえ、もうちょっと調べてみました。
 下掲↓はラウターパクトの業績と生涯を紹介した論文です。 
http://www.ejil.org/pdfs/8/2/1428.pdf
 このうち、業績部分には全部目を通しましたが、「私法原理がいかに国際法に類推導入されてきたか」(上出)を彼が論じたことは出てきましたが、「他国に対する武力攻撃であっても、それが自国の重要な法益を脅かす場合には自衛権の行使を認めることが集団的自衛権の意義であ」ると彼が論じたという話は出てきませんでした。
 そもそも、「私法原理が・・・国際法に類推導入されてきた」と主張するラウターパクトが、集団的自衛権を正当防衛権とかなり変わった代物と再規定した、と考えるのは不自然でしょう。
 結局、ラウターパクトを「自国と密接な関係にある国」論者とみなすことには、やはり、大いに疑問符を付けざるをえません。
 西川君は、防衛庁時代から、学術論文を外部に発表しており、そのいくつかに(彼の献呈を受けて)目を通したことがありますが、安全保障関係の論文であるにもかかわらず、英語の典拠が殆んど付いていないことを心配していました。(仕事と直接関係ないので、指摘はしませんでしたがね。)
 今回の論文についても、英語の典拠は2つだけであり、そのうちの一つはバウエットの著書ですが、ケルゼンとラウターパクトの論文ないし著書は出てきません。
 西川君は、現在はれっきとした学者なのですから、(「英米法では」云々に直接的典拠を付けなかったり、)孫引きでお茶を濁したり、なんて手抜きをしちゃあいけません。
 また、西川君が集団的自衛権についての三つの説を紹介したのは、恐らくは、外務省による紹介(コラム#1991)を踏襲したのだと思われますが、属国日本の買弁官僚の最たる存在にして、かつ、吉田ドクトリン墨守を省益と思い込んでいる存在たる、外務官僚の公的文書や外務官僚の著作等は疑ってかからなければならないのに、彼にはそのような意識も乏しそうですね。
 奮起を促したいと思います。
<あのま~す。>
 諜報関係とコネが無いと無理との事ですが、自衛隊<を>使って実績を積ませるというやり方でもクリアできないもんですか?
 実績さえあれば信用されそうな気もするんだけど。
<太田>
 自衛隊が最近撤退したゴラン高原には長期にわたって派遣されていたけれど、大体は短期間だし、そもそも、「安全」な所にしか派遣されないのですから、命のやり取りをするような環境下での諜報活動など自衛隊はしたことが殆んどありません。
 自衛隊を国際平和維持軍の一環として海外に派遣するようになれば事情は変わってきますが、それには集団的自衛権行使の解禁と諜報機関・・自衛隊内の諜報機関を含む・・の設立が前提になります。
 それでは、その他の記事の紹介です。
 森本さん、もう防衛大臣じゃないんだから、公式見解だけ口にしてたらダメじゃん。
 (下掲部分がことごとく「間違い」であることは読者の皆さんは分かるよね。)
 それとも、まさか、これ彼のホンネ?!↓
 「・・・尖閣諸島があらゆる面から見てわが国固有の領土であることには一点の疑いもない。これに対し、中国が尖閣の領有権を主張し始めたのは、1970年代のことであり、しかも、そこには何の根拠もない。・・・
  しかし、中国は本気である。・・・そのうち中国が国内不安に陥って政権の統治能力が脆弱(ぜいじゃく)になりでもしたら、求心力回復のため経済的犠牲を払ってもさらに不条理な実力行動を起こす可能性が高い。・・・
 日本として、・・・日本側から挑発してきたという口実を、中国側に与えるような行動を取るべきではない。中国の方は、それを利用しようとして待っているからである。・・・
 侵入する中国機に警告射撃を検討している、などと政府関係者が発言することは国益に反する。・・・
 日本が中国の行動に過敏に対応すれば中国は手を引く、と日本側の一部で考えられているほど、中国は甘くない。・・・
 日中の軍事衝突という最悪の事態は何としても回避しなければならない。・・・
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/130128/plc13012803070002-n1.htm
 維新が伸び悩んでるね。↓
 「・・・夏の参院選の比例投票先は37・2%が自民党を挙げ、日本維新の会の12・1%、民主党の8・8%、みんなの党の6・2%を引き離した。・・・」
http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/news/CK2013012802000119.html
 「参院選「自民に投票」41% 維新は12%・民主8% ・・・」
http://www.nikkei.com/article/DGXNASFS2701Y_X20C13A1PE8000/?dg=1
http://www.nikkei.com/article/DGXNASFS2701M_X20C13A1MM8000/
 朝日新聞の電子版HPが一番大きく取り上げてたが、日本の主要マスコミの取り上げ方は全般的に不十分だ。↓
 「H2A:情報収集衛星打ち上げに成功 JAXAなど・・・」
http://mainichi.jp/select/news/20130127k0000e040140000c.html
 昨日紹介したファーガソン論考でボクが紹介しなかった部分を朝鮮日報が取り上げたな。↓
 「「円安非難は偽善」米経済学者が韓国批判・・・」
http://www.chosunonline.com/site/data/html_dir/2013/01/28/2013012800368.html
 FTによるビジネススクールのランキング。ハーヴァード1位、スタンフォード2位。
 だけど、スタンフォードの卒業生が一番羽振りはよさそうだね。↓
http://rankings.ft.com/businessschoolrankings/global-mba-ranking-2013
 この中に登場するいくつかの数字は興味深いが、原爆が25万から50万米兵の命を救ったっちゅう迷信が繰り返されてるのはやりきれないね。↓
 ・・・Mr. Kennedy writes knowledgeably and movingly of the scientists who built the war-ending nuclear weapon at Los Alamos, N.M. Their average age, he notes, was only 26. When one considers the 3,000 Americans killed and wounded clearing a similar number of Japanese off the tiny island of Tarawa in November 1943, Mr. Kennedy is right to ask what the cost would have been in American lives considering that “the enemy garrisons in the Philippines were twenty or fifty times as large as those on Tarawa.” Moreover, if the Japanese home islands would have had to have been invaded against similarly fanatical resistance, the U.S. might have had to countenance losses of a quarter-million to a half-million men, many multiples of the numbers lost even in the Civil War. For most people, the question of the nuclear bomb therefore answers itself and makes the scientists working at breakneck speed every possible hour in New Mexico truly heroic in their efforts. They were the best of the “problem solvers,” ・・・
http://online.wsj.com/article/SB10001424127887324235104578244540714187334.html?mod=WSJ_Opinion_LEFTTopOpinion
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<me>
 <太田>閣下、google<(コラム#5991)>はソフトではなく検索サービスです。笑
→スマホではアプリという言葉を使った方がよさそうですが、google「アプリ」をインストールしないと、googleのアイコンがスマホ画面に表示されないので、google「ソフト」をインストールしたと言ってもあながち間違いじゃないのでは?(太田)
 ブラウザはSafari。
 googleマップというアプリはある。わざわざSafariからgoogleのページを開いてマップまで辿らなくても、アプリを開けばマップが開く。
 しかも、Web版では通常ストリートビューは見れないが、アプリでは簡単な操作で見れる。
 iPhone5に元々入っているマップは不具合があり地理情報がめちゃくちゃなので使い物にならない。Appleが公式に謝罪しているほど。
→こんな有名な話、知らない人の方が少ないでしょう。(太田)
 なのでgoogleマップのアプリ(無料)を即刻インストールすべき!
<太田>
 「「Googleマップ」<は>既にインストールされていることが分かった」(コラム#5991)って書いたでしょ。
 私が知りたいのは、Googleマップが開いてる状態で、どうやって「ストリートビュー」を呼び出すのかです。
 参考まで。
 やっぱそうだったのかー。↓
 「・・・米国防総省の機関であるDARPA(国防高等研究計画局)が3億ドルもかけてSiriを開発した・・・」
http://business.nikkeibp.co.jp/article/report/20130124/242708/?P=2
 も一つ。CSM選定iPhoneアプリ20選だ。英語ソフトであることにご注意。↓
http://www.csmonitor.com/Innovation/2013/0127/20-best-iPhone-apps-to-get-you-started/Tripit?nav=87-frontpage-entryLeadStory
 更にも一つ。スマホが米国人の生活をどれほど変えたかが分かるよ。↓
http://www.csmonitor.com/layout/set/print/Innovation/Tech/2013/0127/The-app-driven-life-How-smartphone-apps-are-changing-our-lives
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太田述正コラム#5994(2013.1.28)
<米国前史(その2)>
→非公開。