太田述正コラム#0267(2004.2.22)
<台湾の法的地位(続々)>

 (本コラムは、コラム#247、コラム#260の続きです。法律論のお嫌いな読者の方は、読み飛ばしてください。)

2 米国等の主張
 (1)始めに
(2)米国等の主張
・・・・・・(コラム#260を参照)
 対日平和条約が発効した1952年の以前も以後も台湾が米国(軍事政府)の軍事占領下にあることは、対日平和条約第23条(a)(注5)で米国が主要占領当局であることが再確認されていることと、同条約第4条(b)に「日本国は、第二条・・に掲げる地域のいずれかにある合衆国軍政府により、又はその指令に従つて行われた日本国及びその国民の財産の処理の効力を承認する。」とあることから明らかだ。

 (注5) 第二十三条(a) この条約は、日本国を含めて、これに署名する国によつて批准されなければならない。この条約は、批准書が日本国により、且つ、主たる占領国としてのアメリカ合衆国を含めて、次の諸国、すなわちオーストラリア、カナダ、セイロン、フランス、インドネシア、オランダ、ニュー・ジーランド、パキスタン、フィリピン、グレート・ブリテン及び北部アイルランド連合王国及びアメリカ合衆国の過半数により寄託された時に、その時に批准しているすべての国に関して効力を有する。この条約は、その後これを批准する各国に関しては、その批准書の寄託の日に効力を生ずる。

 このように、台湾の法的地位は日本の主権下、日本の潜在主権下、主権の帰属未定、と変化してきたが、その法的地位に再び変化が生じ、中共の潜在主権下に入ったのは1979年だ。(ハーツェルは、これが1972年の時点のことだとしているが、1979年の時点に変更した。)
 すなわち、1972年にニクソン米大統領が訪中した際の米中共同宣言(Shanghai Communique)に「The US side declared: The United States acknowledges that all Chinese on either side of the Taiwan Strait maintain there is but one China and that Taiwan is a part of China. The United States Government does not challenge that position. It reaffirms its interest in a peaceful settlement of the Taiwan question by the Chinese themselves.」とあり(http://www.china.org.cn/english/china-us/24878.htm。2月22日アクセス)、この共同宣言を踏まえた1979年の米中国交回復の共同宣言に「The United States of America recognizes the Government of the People’s Republic of China as the sole legal Government of China. Within this context, the people of the United States will maintain cultural, commercial, and other unofficial relations with the people of Taiwan. 」(http://www.china.org.cn/english/china-us/26243.htm。2月22日アクセス)とあることから、主要な占領当局たる米国は、台湾の軍事占領を継続しつつも、1979年の時点で、台湾海峡両岸の支那人が、台湾は支那の一部であり、その支那には正統政府が一つしか存在していないと主張していることを認めそのことに異議を唱えない、と支那の正統政府として認めた中共に約束したことになる。
 つまり、この時点からは、米国は、中共が支那の正統政府であり、台湾が支那の一部であること、すなわち台湾が中共の潜在主権下にあることを認めるとともに、米国による台湾軍事占領に、台湾が中共の統治下に入るまで、という期限を設定した。ただし、米国としては、その具体的期限は、台湾海峡両岸の支那人が話し合って平和裏に決定すべきものと考えている、というわけだ。
 
 ちなみに、中共は、1972年の日中共同声明で台湾の法的地位問題は決着したと主張しているが、日本は台湾などに対する領有権を放棄した対日平和条約が1952年に発効した時点で台湾の帰属問題について発言権を失っていることから、1972年の時点で台湾の法的帰属問題に影響を及ぼすことはできない。(日中共同声明でポツダム宣言第8項に言及がなされているが、この第8項は、「台湾・・ヲ中華民国ニ返還スル」としたカイロ宣言(前掲http://list.room.ne.jp/~lawtext/1943Cairo.html)の「條項ハ履行セラルベク」としており(前掲http://list.room.ne.jp/~lawtext/1945Potsdam.html)、「履行スル」と明確には述べていないことを、日本としては「遵守する」と言っているに過ぎない(前掲http://www.ne.jp/asahi/nd4m-asi/jiwen/china/file31.htm)ものと認識している。)

 いずれにせよ、米国の主張は1979年の米中国交回復から一切変更されることなく一貫しているのであって、ブッシュ政権が台湾「独立」への動きを牽制すると同時に、他方で中共の台湾への軍事的介入に反対するのはそのためだ。

(続く)