太田述正コラム#0301(2004.3.27)
<シバジ騒動(その1)>

1 始めに

シバジ(Shivaji)って誰だかご存じですか?
インド人なら知らない人はいません。
マラータ同盟、はどうですか?
そう言えば、世界史でちょっと出てきたっけ、と思い出された方もおられでしょう。
「シバジとマラータ同盟の勃興はインド史の重要な要素だ。シバジ(1627??80年)はマラータ王国の創設者だ。彼はヒンズー神話の英雄達から大いに霊感を与えられ、自分の使命はインドをイスラムの支配者達から解放することだと考えた。・・彼はゲリラ戦術を用いて、インド史上最も強大な帝国であるムガール帝国(当時はアウラングゼーブ帝)に挑んだ。・・彼は行政手腕も発揮した。彼のつくった政府は、内閣、外交、国内諜報、といった近代的部門を持っていた。」(http://www.kamat.com/kalranga/maharashtra/shivaji.htm。3月28日アクセス)というのが、シバジについてのインドでの典型的な評価です。
このシバジについて、米国の学者ジェームス・レーンによって書かれた伝記(James Laine, Shivaji: Hindu King in Islamic India ,New Delhi, Oxford University Press, 2nd ed., 2003)・・シバジの実像を暴いたもの・・をめぐってインドでは大騒ぎが起きています。
その大騒ぎぶりは、この本を紹介しているアマゾンのサイトへの読者書評の書き込み(http://www.amazon.com/exec/obidos/tg/detail/-/0195141261/104-2223157-5120743?v=glance。インド人らしき大勢の読者達から激しい非難が投げつけられている)を見るだけで想像がつきます。
しかも事態は、この騒動を契機にして、インドの初代首相ネールの本までがやり玉にあがる、という意外な展開を見せるに至っています。
ネールの本は、「インドの発見」(Discovery of India)という、1940年代初めに書かれたもので、インド史に関する古典的著作とされており、ネールの孫であるラディブ・ガンジー首相(当時)によって1986年に再出版されていますが、この中にシバジに対して批判的なくだりがある(注1)、というのです。

(注1)「シバジは<ヒンズー主義者だと言われているが、>アウラングゼーブと戦う際、イスラム教徒を盛んに用いた<ではないか>」(同書PP272)(http://www.sscnet.ucla.edu/southasia/History/Mughals/Shivaji.html。3月20日アクセス)

シバジの生誕地であるマハラシュトラ(Maharashtra)州は国民会議派の州政府の下にありますが、上記レーンの本が中央政府を牛耳るBJPの主導でインド全国で発禁処分にされたことを踏まえ、間近に迫った総選挙を意識し、このネールの本も発禁処分にされるべきだとBJPの指導者達が主張し始めたのです。
(以上、http://news.bbc.co.uk/2/hi/south_asia/3550257.stm(3月20日アクセス)による。なお、現在のインドの政治状況については、コラム#284??286参照。)
そもそも、レーンはシバジについてどんなことを書き、レーンの本をめぐる大騒ぎはどんな風に展開したのでしょうか。

(続く)