太田述正コラム#8138(2016.1.6)
<映画評論46:007 スペクター(その2)>(2016.4.22公開)
3 思弁的に面白かった理由
 (1)始めに
 まず、これが英国映画であることを確認しておきましょう。
 それは、タイトルで早くも決まりです。
 米語の’Specter’ではなく、英語の’Spectre’だからです。(A)
 (ちなみに、邦題は、『スペクター』ではなく、『007 スペクター』になっています。(C))
 それだけでは身も蓋もないので、もう少し続けましょう。
 製作はイーオン・プロダクションズですが、英国に本拠を置いています。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A4%E3%83%BC%E3%82%AA%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%83%97%E3%83%AD%E3%83%80%E3%82%AF%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%83%B3%E3%82%BA
 監督がサム・メンデスであり、英国人でケンブリッジ大卒です。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B5%E3%83%A0%E3%83%BB%E3%83%A1%E3%83%B3%E3%83%87%E3%82%B9
 脚本は、この映画の日本語ウィキペディアでは、米国人でノースウェスタン大卒のジョン・ローガンだけを挙げており、
https://ja.wikipedia.org/wiki/007_%E3%82%B9%E3%83%9A%E3%82%AF%E3%82%BF%E3%83%BC:C
また、彼は007シリーズの前作の『スカイフォール』の脚本陣にも加わっていますが、
https://en.wikipedia.org/wiki/John_Logan_(writer)
それも英国人たる2人の脚本家、ニール・パーヴィスとロバート・ウェード(いずれも英ケント大卒)との共同作業でした
https://en.wikipedia.org/wiki/Skyfall
https://en.wikipedia.org/wiki/Neal_Purvis_and_Robert_Wade
し、今回の映画でも、この同じ2人に加えて、更に、英国人でケンブリッジ大卒のジェズ・バターワースとの共同作業です。
https://en.wikipedia.org/wiki/Jez_Butterworth
 (日本語ウィキペディアの手抜きには困ったものです。)
 次に、俳優陣です。
 主演のダニエル・クレイグは、英国人で名門のギルドホール音楽演劇学校卒です。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%80%E3%83%8B%E3%82%A8%E3%83%AB%E3%83%BB%E3%82%AF%E3%83%AC%E3%82%A4%E3%82%B0
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AE%E3%83%AB%E3%83%89%E3%83%9B%E3%83%BC%E3%83%AB%E9%9F%B3%E6%A5%BD%E6%BC%94%E5%8A%87%E5%AD%A6%E6%A0%A1
 主悪役はオーストリア人で、
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AF%E3%83%AA%E3%82%B9%E3%83%88%E3%83%95%E3%83%BB%E3%83%B4%E3%82%A1%E3%83%AB%E3%83%84
その筆頭子分格は米国人で、
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%87%E3%83%93%E3%83%83%E3%83%89%E3%83%BB%E3%83%90%E3%82%A6%E3%83%86%E3%82%A3%E3%82%B9%E3%82%BF
準悪役Cはアイルランド人であり、
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%B3%E3%83%89%E3%83%AA%E3%83%A5%E3%83%BC%E3%83%BB%E3%82%B9%E3%82%B3%E3%83%83%E3%83%88
また、主ボンドガール・・ボンドガールは非英国人じゃないとおかしいですよね・・の前出レア・セドゥはフランス人で、
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AC%E3%82%A2%E3%83%BB%E3%82%BB%E3%83%89%E3%82%A5
従ボンドガールのモニカ・ベルッチはイタリア人です
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A2%E3%83%8B%E3%82%AB%E3%83%BB%E3%83%99%E3%83%AB%E3%83%83%E3%83%81
が、主役を支える3人組中の、Q役には英国人で同じく名門の英国王立演劇アカデミー卒のベン・ウィショー、
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%99%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%82%A6%E3%82%A3%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%83%BC
同じくマネーペニー役には英国人でケンブリッジ大卒のナオミ・ハリス(黒人女性)、
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8A%E3%82%AA%E3%83%9F%E3%83%BB%E3%83%8F%E3%83%AA%E3%82%B9
そして同じくM役には英国人で上出の英国王立演劇アカデミー中退のレイフ・ファインズ
https://en.wikipedia.org/wiki/Ralph_Fiennes
といった具合です。
 前にも記したことがありますが、英国の映画の製作陣や俳優達の学歴の高さはハンパじゃないですね。
 なお、付け加えておきますが、作曲は、米国人でエール大卒のトーマス・ニューマン
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%88%E3%83%BC%E3%83%9E%E3%82%B9%E3%83%BB%E3%83%8B%E3%83%A5%E3%83%BC%E3%83%9E%E3%83%B3
ですが、全英シングルチャート1位を獲得した主題歌ライティングズ・オン・ザ・ウォールに限っては、作詞作曲(以上他の1名と共同)及び歌唱は、英国人の「無学歴」のサム・スミス(コラム#7496)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%83%86%E3%82%A3%E3%83%B3%E3%82%B0%E3%82%BA%E3%83%BB%E3%82%AA%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%82%B6%E3%83%BB%E3%82%A6%E3%82%A9%E3%83%BC%E3%83%AB
https://www.youtube.com/watch?v=8jzDnsjYv9A ←お聴きあれ。
https://itunes.apple.com/jp/album/writings-on-the-wall-single/id1037850750?app=itunes&ign-mpt=uo%3D4# ←この曲の250円でのダウンロードはここから。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B5%E3%83%A0%E3%83%BB%E3%82%B9%E3%83%9F%E3%82%B9
です。
 配給はコロンビア映画、要するにソニー・ピクチャーズ・エンタテインメントですから、日本ですけどね。
 「2014年11月23日に、ソニー・ピクチャーズ・エンタテインメントへのハッキング事件が発生し、本作の製作に関わる書類の一部が流出した。その中には、本作の脚本の草稿も含まれていた。」(C)ことはご記憶の方もあるでしょう。
 (以上、全般的に、A、Cに拠っています。)
 何が言いたいかというと、このような英国的製作陣が英国人たる俳優群を駆使して製作した映画が、英国の現状の本質を映し出さない映画、そして、英国へのオマージュ的メッセージ性を帯びない映画、であるはずがない、ということです。
 ここで先回りして申し上げておきますが、この映画は、英国での評価は高く、米国での評価は低い(A)のですが、それは、米国人達は、知識人達を含め、「母国」であるにもかかわらず英国について真に理解している者が少なく、また、そもそも、「母国」であるにもかかわらず英国への関心自体が低く、(英国について、恐らくは彼らよりは通暁していると密かに自負しているところの私、及び)英国人一般のように、この映画が、「英国の現状の本質を映し出」すとともに、「英国へのオマージュ的メッセージ性を帯び」ていること、に彼らは気付かない、いや、そんなことには彼らは興味はない、からなのです。
 この映画は、そんな評論を一般に行ってしまったことによって、米国人達の、とりわけその知識人達の浅薄さ、矮小性、唯我独尊性を、改めて炙り出した、といったところでしょうか。
(続く)