太田述正コラム#9559(2018.1.2)
<映画評論51:ユダヤ人を救った動物園 ~アントニーナが愛した命~(その7)>(2018.4.18)

 「<この映画>全体を通じて、何か尋常ならざる諸配慮(touches)がなされている。
 それは、微妙(sensitive)なものであり、共感的(empathetic)なものでさえあって、動物達の撮影ぶり、から、例えば、ドイツ軍の兵士達に急がされている<ユダヤ人>男が地面に落ちた自分のメガネを拾い上げている光景、といった小さな諸瞬間にまで至ってうかがえる。・・・
 この映画の諸出来の良さ(virtues)を制作者達が女性であることに帰せしめることは、彼女達個々人の諸業績を矮小化することになるのかもしれない<が、あえてそのことを指摘しておきたい。>・・・
 この映画は、その偉大さ(grandeur)を、大きな諸動きの描写を通じて、ではなく、心(soul)の諸揺らぎ(shifts)や諸明滅(flickers)への気配り(attentiveness)を通して、達成している。
 第二次世界大戦は大いなる外部の出来事だったけれど、監督は、それが、その只中を生き抜こうと試みたところの、人々や動物達によって、内面的に経験された、ということを我々に思い起こさせるのだ。」(Ζ)

⇒まるで、日本の小説や映画の評論を読んでいるかのようですが、まさに、女性一気通貫のような映画を制作することで、日本的な、心理の襞を繊細に表現する、映画が、企図通りに誕生した、ということなのだろう、と、私は思うのです。(太田)

 「AP通信は、この映画は「わくわくするような(riveting)本当の物語を伝えている」、つまり、「鼓吹的であると共に、驚天動地の悪に直面してさえ、人間性と善性が臨機応変の対応を行うことができることを、この不確実性の時代において、うれしいことに、我々に思い起こさせてくれる」、と述べる。
 『ニュー・リパブリック(New Republic)』誌<(注12)>の<ある映画評論家>は、この映画を、「最初のフェミニスト的ホロコースト映画」と触れ込んだ。・・・

 (注12)「1914年創刊の<米国>のオピニオン・マガジン(少数意見を売る雑誌)。・・・少部数ながら「知的影響力」絶大な雑誌・・・。何度も変貌を重ねてきたが、初期の寄稿家には政治評論家のウォルター・リップマンがいた。発行部数8万5000部(2002)。」
https://kotobank.jp/word/%E3%83%8B%E3%83%A5%E3%83%BC%E3%83%BB%E3%83%AA%E3%83%91%E3%83%96%E3%83%AA%E3%83%83%E3%82%AF-1574599

 『変化に向けての女性達の声(Women’s Voices For Change)』<ネット誌(注13)>の中で、<ある映画評論家>は、この映画に対して稀なる評論を行った。

 (注13)団体は米国で非営利団体として2005年に設立され、ネット誌は2006年創刊。
https://womensvoicesforchange.org/about/history

 すなわち、この映画は、ホロコースト映画群の中での稀少物であり、戦争について、及び、あらゆる生きとし人々(soul)、異邦人達、そして、友人達、を、押しなべて守ろうと頑張る(struggle)ことについて、の女性の観点(perspective)において、際立っている(distinguished)、と。」(B)

 「<とまあ、>評論家達からは賛否両論があったが、<この映画は、>観客からは<、押しなべて、>上々の評価を受け<た。>」(A)

⇒当然、それは、反戦・平和志向にして非人間中心主義的な作品、私の言葉で言うところの、人間主義的な、或いは、縄文性を帯びた、作品にならざるえない、ということになるはずなのです。(太田)

7 「毀」誉褒「貶」

 「『バラエティ(Variety)』<ネット誌(注14)>の否定的な評論の中で、<ある映画評論家>は、「この場合にふさわしい文句が思い浮かばないのだけれど、この映画には、人間ドラマを、動物達に起きることよりも興味深くないものにしてしまっている、という不幸な欠点がある。ホロコーストのような、我々人間種族をかくも毀損した問題(subject)に関して言えば、これは小さな欠点とは言えない」、と述べた。

 (注14)「<米>国で発行されているエンターテイメント産業専門の業界紙。1905年、ニューヨークで・・・ヴォードヴィル週刊誌として創刊された。」現在は電子版のみ。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%90%E3%83%A9%E3%82%A8%E3%83%86%E3%82%A3_(%E3%82%A2%E3%83%A1%E3%83%AA%E3%82%AB%E5%90%88%E8%A1%86%E5%9B%BD%E3%81%AE%E9%9B%91%E8%AA%8C)
 「ヴォードヴィルまたは、ボードビル(vaudeville)とは・・・米国においては舞台での踊り、歌、手品、漫才などのショー・ビジネスを指す」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%B4%E3%82%A9%E3%83%BC%E3%83%89%E3%83%B4%E3%82%A3%E3%83%AB

 <もっとも、同じ>『バラエティ』誌の<もう一人の映画評論家>は、この映画は、オスカー候補作としての考慮に値する、と<まで>記している<が・・>。」(B)

 「NYタイムスの<ある映画評論家>は、この映画「は、ペット達付きのシンドラーのリストみたいだ」、と述べ、それは、「余りにも臆病で無害化(sanitized)されているので、殆ど子供達に見せても心配ないように感じられる」、と記している。」(B)

⇒この後も褒貶批評が続きますが、欧米の選良達には、依然として、人間主義/縄文性、は、余りお気に召さないようですね。
 しかし、欧米の庶民達には一抹の希望が持てそうです。(太田)

(続く)