太田述正コラム#0562(2004.12.13)
<台湾の総選挙の評価>

11日に台湾で総選挙が実施されました。
予想ではこれまで少数与党であった民進党と台湾団結連盟が合わせて全議席の過半数をとると考えられていましたが、多数野党であった国民党・親民党・新党が過半数を維持するという意外な結果に終わりました(注1)(http://www.latimes.com/news/nationworld/world/la-fg-taiwan11dec11,1,2463159,print.story?coll=la-headlines-world。12月12日アクセス(以下特に断っていない限り同じ))。

(注1)3月の総統選挙における陳水扁勝利も番狂わせであった(コラム#296)ことを思い出す。台湾の選挙は面白い。

しかし、前回の2001年の総選挙の結果と比較してみますと、全225議席中の過半数113犠牲を1議席上回る114議席を獲得した野党側(青陣営)の得票率は50%から52%へと増えただけであるのに対し、101議席を獲得した与党側(緑陣営)の得票率は41%から48%に大きく増えており、緑陣営が着実に支持を伸ばしたと見ることもできます(http://www.taipeitimes.com/News/taiwan/archives/2004/12/12/2003214732)。
ちなみに、台湾では議員は行政府の閣僚等を兼ねることができないので、緑陣営が青陣営の議員を行政府のポストで釣って減らすことが予想され、また、青陣営に何人かいる海外在住の議員の議会出席率が悪いこともあって、両陣営の議会内での力は前回の選挙以来の青陣営と緑陣営の伯仲が続くこととなり、10議席の中間派がキャスティングボートを握っていると言っていいでしょう。(もっとも、その中間派は青陣営寄りです。)(http://www.taipeitimes.com/News/taiwan/archives/2004/12/12/2003214733)。
そうは言っても、今年3月の総統選挙の時には緑陣営は過半数を制して陳水扁再選をなしとげた(注2)のですから、緑陣営には反省すべき点があるはずです。

(注2)ただし、同時に実施された初の住民投票は、有権者の5割の参加を確保できなかったため、成立せず失敗に終わった(コラム#296)。

その手がかりは、今回の総選挙の投票率が史上最低の59.16%であった(http://www.taipeitimes.com/News/front/archives/2004/12/12/2003214727)ところにあります。これは浮動票の多い緑陣営支持者(コラム#296)で投票に行かなかった者が多数いたことを意味します。
このことと、最も中共寄りである親民党が前回の総選挙の時に比べて12議席も減らして34議席であったこと、逆に最も台湾「独立」志向である台湾団結連盟もまた1議席減らして12議席であったこと、を合わせ考えると、台湾の浮動有権者で、台湾国内の混乱を招くとともに中共の反発と米国の懸念を招いてきた台湾政界の二極分化状況に嫌気が差した人々がかなりいる、と見ることができます(http://www.guardian.co.uk/taiwan/Story/0,2763,1371733,00.html)。
そうだとすると結果論になりますが、陳水扁総統として、かねてから主張してきた憲法改正の旗印を下ろす必要こそなかったものの、選挙期間中に「中国」とか「中華」といった名前の政府系企業を「台湾」に改称させるとぶちあげた(http://www.washingtonpost.com/ac2/wp-dyn/A56977-2004Dec11?language=printer)ことは、米国政府の不快感表明を招いた(http://www.cnn.com/2004/WORLD/asiapcf/12/11/taiwan.election/index.html)こともあり、失敗だったというべきでしょう。
興味深いのは中共の対応です。
今まで選挙のたびに緑陣営への脅しを繰り返してきた中共政府は、それが逆効果であったことを自覚したか、今回は完全に沈黙を保ち(ロサンゼルスタイムス前掲)、選挙が終わってからも、12日夕刻時点で何の表明もしていません。
しかし、(当然政府の意向を汲んで)同国の中央テレビが「台湾の選挙結果は現在の政治当局に不満を抱く台湾の民意を代表したものだ・・台湾の民衆は台湾の選挙文化に失望しており、積極的に選挙に参加していない・・人々は現在の台湾当局がわざと台湾内の対立や分裂を激化させていることに嫌気がさしている」と報じた(http://www.nikkei.co.jp/news/kaigai/20041212AT2M1101Q11122004.html)ことは注目されます。
これは客観的かつ「妥当」な論評であるだけでなく、選挙結果を「民意」のあらわれとしていることは、選挙(制度)を評価している、とも受け止められるからです。
やはり、中共の全権を掌握した胡錦涛は、対日政策(コラム#560)に引き続いて台湾政策も転換しようとしている、と私には思えてなりません。
中共に面子を失わせることなく政策転換を行わしめる猶予を与えたという意味では、今回の選挙結果は、巧まずして最善の結果であった、と言えるのかもしれません。

(12月12日夕刻発信)