太田述正コラム#9742005.11.28

<正反対のプーチン訪日評価>

                     

1 初めに

 差別問題にどっぷり浸かっていたため、いささか旧聞に属しますが、プーチン・ロシア大統領の5年ぶりの訪日の評価が日本と英米のプレスで正反対であったことについてご紹介するとともに、所見を申し述べようと思います。

2 日本のプレス

 日本のプレスはおおむね、プーチンは強硬な姿勢を崩さず、日本は得るところがなかった、という評価です。

 例えば東京新聞は、次のように評しました。

「ロシア<は>・・原油価格高騰の追い風も受け、国内総生産は年7%の成長率を示し、エネルギー大国としての自信を膨らませている。・・領土交渉で、もはや日本の経済支援が「切り札」でなくなっている現状が浮き彫りになった。<また、>中ロ両国は懸案だった国境問題を解決すると、今年八月には大規模な合同軍事演習を実施した。・・<このような>ロシアの対中国関係の緊密化も、プーチン政権の対日強硬姿勢に影響を及ぼしている。・・<そもそも、北方領土問題については、>・・鈴木宗男氏らは、・・二島の返還と、択捉、国後二島の帰属問題を同時に進める「並行協議」を模索<し>ロシア側もこれに応じてきた<が>、鈴木氏らの逮捕などで、実質的に日本側から「並行協議」を破たんさせ、ロシア側の不信感を招いた。」(http://www.tokyo-np.co.jp/00/kakushin/20051122/mng_____kakushin000.shtml1122日アクセス)

 また、日本経済新聞は、次のように評しました。

 「プーチン大統領が日本に着いたの20日午後2時。最初の行事は都内の六本木ヒルズで開いている日ロ友好アート展の視察だった。時刻は午後6時を過ぎていた。次いで柔道家の山下泰裕・東海大学教授と会談、柔道談議に花を咲かせた。<これは>いずれもロシア単独の行事として行った<ものだ>。・・<更に、日露>首脳会談<は、>日本経団連との行事である「日本ロシア経済協力フォーラム」の後に回<すという>異例の日程になった。ロシア側があたかも民間との行事を優先するかのように扱った背景には日本政府、特に外務省への不信感がある。」(http://www.nikkei.co.jp/news/seiji/20051122AT1E2101H21112005.html1122日アクセス)

3 英米のプレス

 ところが、英米のプレスはおおむね、プーチンはもみ手をして訪日し、日本は大いに得るところがあった、と正反対に評しています。

 例えば、ガーディアンは、次のように評しました。

 「ついこれまで、ロシアの大統領は、熱心に中共に言い寄ってきた。彼は北京に石油と武器を売っている。今年の相互貿易は150英ポンドに達するだろう。冷戦時代の国境紛争は解決した。両国は最近、初めて共同演習を実施した。そして両国は国連でイランやスーダン問題等に関し、しばしば共同行動をとってきた。しかし、北京から不誠実だと非難される危険を冒してまで、プーチンは、中共のかつての敵であり、地域的ライバルであり、しかもロシアとまだ法的には戦争状態にある日本でこの三日間を過ごした。彼は日本とシベリアの石油をつなぐパイプラインの建設を約束した。彼はもっとロシアに投資を、と促した。そして彼は、極めて危うい千島列島・・日本では北方領土として知られる・・の問題で日本にこびを売るような姿勢を見せた(he was conciliatory)。・・<これはなぜだろうか。それは、>英ワーリック大学University of Warwick)の地域専門家のヒューズ(Christopher Hughes)によれば、「・・・ロシアは極東で非常に弱い立場にある。ロシアは極東に軍事的プレゼンスがなきに等しい。」からだし、ほかの何人かのアナリスト達によれば、資源が豊かで、人口が少ないシベリアは、いつの日か、拡大する中共にとって魅力あるターゲットになりうるからだ。」http://www.guardian.co.uk/worldbriefing/story/0,15205,1648686,00.html1123日アクセス)

 また、ニューヨークタイムスは、次のように評しました。

 「プーチン大統領は、ロシアと中共の関係緊密化によって一方に傾いたアジアにおける力の三角形の均衡を是正するため、日本を5年ぶりに訪問し、シベリアの石油を日本海に運ぶパイプラインの建設時間表を一年以内に決定すると日本に約束した。・・彼は、これをエサにして、海外からのロシアへの投資の1%でしかない、日本からの投資と、そして貿易を大幅に増大させたいと願っている。露日貿易は今年100億米ドルにはなる見込みだが、露中貿易は今年250億米ドルになる見込みだからだ。・・プーチンは、この貿易面での不均衡を是正するため、100名ものロシアの経済界のリーダー達を率いて日本にやってきた。」(http://www.nytimes.com/2005/11/22/international/asia/22japan.html?pagewanted=print1123日アクセス)

4 所見

 さて、日本のプレスと英米のプレスのどちらが正しいのでしょうか。

 もちろん、英米のプレスが正しいと私は思っています。

 お断りしておきますが、私はいつも無条件に英米のプレスの言うことに軍配を挙げるわけではありません。

 日本のプレスも日本の政治家や一般国民同様国際関係にうとい、という一般論はひとまず置くとして、当事者(たる日本)よりも第三者(たる英米)の方が客観的に物事を見ることができる場合が多く、しかもこの場合は、日本のプレスが、北方領土問題に拘泥しすぎており、しかも北方領土問題でいかに日本が無理難題を言っているかという自覚がない(北方領土問題については、コラム#549602603697参照)以上、第三者たる英米の見方の方が正しい可能性が高いからです。