太田述正コラム#9992005.12.14

<ロシアの人口動態と差別>

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1 始めに

 しばらく、ロシアを取り上げていませんが、今回は人口動態と差別いう切り口でロシアの現状に迫ってみたいと思います。

2 人口減少続く

 ロシアの人口減少が加速しています。

 今年1月から9月までだけで、50万人以上減り、10月現在のロシアの人口は1億4,300万人となっており、このままでは2050年までに人口が8,000万人まで落ち込む可能性があるとされています。

 原因は、酒の飲み過ぎ・貧困・移住・保健システムの貧弱さ、であり、平均寿命は、女性は72歳ですが、男性は58歳まで短くなってしまいました(注1)。

 (以上、http://www.guardian.co.uk/russia/article/0,2763,1599219,00.html1024日アクセス)による。)

 (1)それだけではない。ロシア人は国内旅行より海外旅行を選び、他方、外国人旅行客は激減しており、ロシアの実在人口は、更に少なくなっている。

    ロシア人は昨年、海外旅行で200億米ドル使ったが、国内旅行ではその20分の1の10億米ドルしか使わなかった。

    また、外国人旅行客は、ソ連時代の1991年には700万人近くも訪れたが、昨年はわずか300万人に減ってしまい、20億米ドルしか使ってくれなかった。今年はこれが更に25%も減る見込みだ。原因は、役者関係の手続きが煩瑣であること、旅行経費が高くつくこと(欧州諸国への観光に比べて2倍近く割高)、インフラとサービスが貧弱であること、そして治安が良くないこと、だ。(http://www.csmonitor.com/2005/1019/p06s03-woeu.html1019日アクセス)

3 イスラム教徒の増加

 このようにロシアの人口が減っている中で、ソ連崩壊後、信教の自由が認められたことと、出生率の高さ、そして平均寿命の相対的長さ(注2)のため、イスラム教徒の人口は相対的にも絶対的にも増えてきており、既に人口の10%から16%1400万人から2300万人に達しています(注3)。

(注2)真面目なイスラム教徒は酒もタバコもやらない。これだけでも非イスラム教徒より健康で長生きするわけだ。

(注3)ちなみに、ロシア正教徒は約7,500万人だ(讀賣下掲)。

イスラム教徒はロシア全土に居住していますが、北コーカサス地方に集中しています。

こうした背景の下、読売新聞(http://www.yomiuri.co.jp/world/news/20051212id28.htm1213日アクセス)によれば、「ロシア国家の紋章は「双頭の鷲(わし)」で、鷲が戴(いただ)く王冠などに十字架があしらわれている。・・・宗教組織「露アジア部イスラム宗務局」議長のナフィグラ・アシロフ師ら3人の有力指導者は6日、「世俗国家」をうたう憲法に違反する、などとして十字架の除去を求めた。アシロフ師はさらに、国境に十字架が設置されたり、軍や内務省の各部隊が、自分の守護聖人を定めている点なども厳しく批判した。他方、ロシア西部ニジニノブゴロドの「イスラム宗務局」は6月、「イスラム教徒の地位向上」のため、ロシアに副大統領職を復活させ、イスラム教徒のポストとするよう提唱し<た>」とのことです。

ロシアの抱えるイスラム教徒「統合」問題は、西欧におけるそれと比較にならないくらい深刻です。イスラム教徒の人口比が格段に多いだけでなく、コーカサス地方のイスラム教徒にロシアから分離独立しようとする動きがある(注4)からです。

(注4)チェチェンの「テロリスト」バサーエフ(Shamil Basayev)(コラム#467469474477)は、北コーカサスにカリフ制の独立国家を樹立しようとしている。

 ロシア政府は、先般、ソ連時代のイスラム監督局(Muslim Spiritual Department)・・イスラム教の指導者の任命を監督する・・を復活させたところです。

(以上、http://www.nytimes.com/2005/11/22/international/europe/22russia.html?pagewanted=print1123アクセス)による。)

4 イスラム教徒への差別

こうした中で、元からロシア領内にいたイスラム教徒(80%)や旧ソ連イスラム系諸国の独立以降ロシアに残留した、あるいはロシアに流入してきた不法「移民」たるイスラム教徒(20%)が、スラブ系による差別の対象になっています。

 昨年は、イスラム系を中心として50名近くのコーカサス人やアジア人らの有色人種の人々が、人種的原因で、スラブ系のチンピラらによって殺害されており、その数は一昨年に比べて2倍に増えています。

 11月の初頭には、モスクワで、「ロシアから占領者を一掃せよ」といったプラカードを掲げた、民族主義者達による3,000人のデモが行われました。

 ロシアの2003年の総選挙では、民族主義的極右政党二党が合わせて20%以上得票し、民族主義的勢力は今後とも伸張していくと見られており、イスラム教徒への差別が一層深刻化していくことは必至です。

(以上、http://www.latimes.com/news/nationworld/world/la-fg-nationalism2dec02,1,1997601,print.story?coll=la-headlines-world12月3日アクセス)による。)