太田述正コラム#13182006.6.25

<捕鯨再論(特別篇)>

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1 捕鯨問題の残された論点

 鯨類の中には増えすぎている種類もある、という点については、科学的には決着がついている、と言ってよいでしょう。

 残された論点は、捕鯨は残酷か、鯨類は高等哺乳類か、という二つです。

 

2 捕鯨は残酷か

 現在の捕鯨は、基本的に、先端に爆薬を仕込んだ銛(explosive grenade harpoon)を鯨に打ち込み、1フィートほど体内に食い込んだ所でこの爆薬を爆発させて鯨の脳に衝撃を与えて鯨を殺すやり方をとっています。

 問題は、爆発後、鯨が瞬時に動きを止める場合が20%ないし40%しかなく、数秒から数分後に動きを止める場合が80%ないし60%あるという点です。後者の場合、通常ライフルで鯨の脳を撃ち抜いてトドメを指しています。

 Whalewatch等の鯨愛護団体は、この間、鯨は激痛に襲われているはずであり、残酷なので捕鯨は禁止すべきだ、と主張しています。

 これに対し、捕鯨国であるノルウェーのある女性の研究者は、鯨は爆発によって瞬時に死亡するが、脊髄反射で動き続ける場合があるだけだ、という仮説を提示しています。というのは、アザラシ(seal)の場合は、既にそのことが証明されているからです。問題は、鯨の場合、巨大でしかも冷水域に棲息しているだけに、このことを証明する実験を、人間が鯨に機器をとりつけることで行うこと大きな危険が伴うことです。

(以上、http://www.slate.com/id/2143986/前掲、及び

http://news.bbc.co.uk/2/hi/science/nature/3542987.stm

http://news.bbc.co.uk/2/hi/science/nature/3847167.stm(どちらも6月23日アクセス)による。)

 それにしても、この議論に日本の科学者が加わっていないようなのは残念です。

3 鯨類は高等哺乳類か

 上記論点は、少なくとも欧米人の観点からは、鯨類が高等哺乳類であるかどうか、という論点と深く関わっています。

 鯨類が地球の主人である人類に近い存在であるならば、殺してはならないし、いわんや残酷な殺し方をしてはならない、というわけです。

 私に言わせれば、こんな理屈はナンセンスです。

 皆さん、われわれがいつも食べている動物の中で豚が一番頭がよいということはご存じでしたか?

 その豚を、体を回転させることができないどころか、前と後ろに一歩ずつしか動けない狭い、コンクリート床の空間に閉じこめ、雌豚であればその状態で子豚を生ませ、子豚を取り去って、またただちに妊娠させる、ということを繰り返し、最後は畜殺しているのです。

 (以上、http://www.taipeitimes.com/News/editorials/archives/2006/06/19/2003314449(6月20日アクセス)による。)

 このような、豚の生涯にわたる扱いの方が、鯨の殺され方よりはるかに残酷だと思いませんか?

 そこで、動物愛護運動が特に盛んなEUでは、食用の豚の飼育方法の改善に取り組んできていますが、改善し過ぎると豚肉の国際競争力の大幅な低下につながることから、遅々として進んでいません

http://lin.lin.go.jp/alic/week/2000/sep/454eu.htm。6月21日アクセス)。

 さて、進化学的に言うと、鯨は豚や牛と同じグループに属し、他方、犬や猫は馬やコウモリと互いに近いのですが、これらの動物はいずれも人間が属する霊長類とは遠く離れた存在です

http://j.peopledaily.com.cn/2006/06/20/jp20060620_60743.html

http://jp.encarta.msn.com/encnet/refpages/search.aspx?q=%e3%83%96%e3%82%bf(どちらも6月21日アクセス))。

 鯨類は豚よりも更に頭が良いのかどうか、つまびらかにしませんが、動物愛護団体が鯨の殺し方が残酷だと言うのであれば、それより前に、いや少なくともそれと平行して、豚の飼育方法の抜本的改善に取り組んで欲しいものです。