太田述正コラム#13202006.6.26

<捕鯨再論(続々)(その4)>

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

コラム#1318・捕鯨再論(特別篇)に関し、ハンドルネーム「くじら君」から以下のような問題提起がありました。(於ブログ掲示板。ホームページの掲示板に転載済み。)

(引用始め)

>鯨類の中には増えすぎている種類もある、という点については、科学的には決着がついている、と言ってよいでしょう。

その種は南極海のミンククジラのことですか?

もしそうでしたら「増えすぎている」かどうかはまだ科学委員会での合意はありませんけど。

「半減」を示唆するSOWERのデータがあるくらいですからとても「増えている」なんて言えないと思います。

それから即死率のことですけども日本の場合はノルウェーとは違って(耳垢栓欲しさゆえ)頭は狙わないので心臓を狙うわけですが「頭は絶対ダメ」という意識が働くためどうしたって心臓より下の腹などに当たる確率が高くなってしまい当然腹なんかでは即死しませんからクジラはその分長い間苦しんでのた打ち回るいうわけです。

したがって日本の即死率はノルウェーのそれの約半分ってことになってしまいます。

(引用終わり)

後半の即死率の方の話から行くと、「爆発後、鯨が瞬時に動きを止める場合が20%ないし40%しかなく、数秒から数分後に動きを止める場合が80%ないし60%ある」(コラム#1318)と申し上げた、20%80%という数字はノルウェーの数字であり、40%60%という数字は、日本の数字です。どうして日本の数字がノルウェーより低く出るのか、おかげさまで理由がよく分かりました。

さて、「鯨類の中には増えすぎている種類もある、という点」についてですが、セント・キッツを含むカリブ海島嶼諸国6カ国が共同提案して採択された例の決議の中にthe Commission adopted a robust and risk-averse procedure (RMP) for calculating quotas for abundant stocks of baleen whales in 1994 and that the IWC’s own Scientific Committee has agreed that many species and stocks of whales are abundant and sustainable whaling is possible; ‘というくだりがあり(http://www.iwcoffice.org/_documents/commission/IWC58docs/Resolution2006-1.pdf前掲)、IWC自身がひげ鯨(baleen whale)については豊富(abundant)であるとしていると指摘したことがあり、かつIWCの科学委員会(Scientific Committee)が鯨の様々な種類が豊富であるとしていると指摘しているのは、事実誤認だ、ということですか?

この点については、本篇の本文中で触れる米国政府のスタンスも参照してください。

5 今後の展望

 来年のアンカレッジで開催されるIWCで議長国となる米国の今次IWC代表は、科学的調査の名の下で、この5年間で1,000頭も捕鯨頭数が増えたという状態をそのまま維持するわけにはいかないとし、捕鯨は解禁しつつ、種類ごとにきちんとした捕鯨枠を設定して獲りすぎの鯨種が出ないようにすべきであることを示唆しています。

 日本としても望むところです。

(以上、http://news.bbc.co.uk/2/hi/science/nature/5100936.stm6月21日アクセス)による。)

しかし、捕鯨禁止派のEUの3カ国の代表達はEU内で、そして同じく捕鯨禁止派のブラジル代表は中南米内で、それぞれIWC加盟国を増やして、反捕鯨国が再びIWCで多数を回復できるよう努力する、と語っています。

EU15カ国のうち14カ国がICWに加盟していて、うち1カ国しか捕鯨解禁を支持している国はありません。EUへの新規加盟が予定されている10カ国のうち、既に3カ国はICWに加盟済みだが、残りの国にも加盟を働きかけていく、というのです。

ブラジルもまた、アルゼンチンと連携しつつ、中南米内でICW加盟国を増やそうとしており、反捕鯨国による多数奪還を楽観視しています。

(以上、http://news.bbc.co.uk/2/hi/science/nature/5100578.stm(6月21日アクセス)による。)

日本を中心とする捕鯨解禁陣営も、当然同様の努力を続けるでしょうから、結果がどうなるかは分かりませんが、大国だろうがミニ国家だろうが、また海洋国ならまだしも内陸国まで、あらゆる国に平等に一票が与えられる、というIWCの意志決定システム・・これは国連と同じですが・・には問題ありと言わざるをえません(注8)。

(注8)今次IWCで最後に上程された決議案は、開催国のセントキッツ提出の、742,000米ドル(うち25万米ドルは警備経費)の追加資金供与を求めた決議案であり、開催国がほとんどの経費を負担するという慣例に反するものだけに、採決の結果は3030で、否決された。ミニ国家がIWCに加盟していることによる悲喜劇だと言えよう(BBC上掲)。

 来年のICWも目が離せそうもありませんね。