太田述正コラム#0217(2003.12.26)
<台湾海峡波高し?(その2)>

(例によって、コラム#216に若干の訂正等を加えてあります。ホームページ(http://www.ohtan.net)の時事コラム欄をご覧ください。)

3 中共武力不行使説

 ところが、後者の記事は、中共「人民」はもはや台湾併合、就中台湾併合のための武力の行使など望んでいない、と報じます。
 「北京の政府は世論の97%が台湾が独立を宣言したら戦争に訴えるべきだとしていると言っているが、実際に話をしてみると、そんな感情を抱いている人はごくわずかだ。・・北京の小さい出版社の経営者であるSam Huangは、「台湾は我々とは別個に50年以上存在してきた。我々は台湾がどんなところか知らない。分かっていることと言えば、そこが全く異なった場所であり、中共とは何の関わりも持ちたくないと思っていることだ。彼らの好きなようにさせればいい。」と言っている。・・ある会社の英語教師のPhoebe Chenは、「台湾が独立したとしても私には関係ないことだ。私が知る限り、台湾は既に独立しているし、自前の政府、法その他あらゆるものを既に持っている。」と言っている。・・北京のタクシー運転手のDaiという姓の男は、「もちろん台湾は支那の一部さ。子供の時から我々は台湾は支那の一部でその解放のために戦わなければならないと教え込まれてきた。しかし、台湾を併合するために戦う気はない。戦うほどの価値はない。あくまでも外交的圧力の行使にとどめるべきだ。」と語った」というわけです。
 台湾対岸の支那の南東沿岸地域でも状況は似たようなもので、それに加えて進出台湾企業も多く、台湾との友好親善関係の進展を望む声が強いといいます。

 これでは少なくとも北京を含む支那沿岸地域では、中共政府が、自ら国民に吹き込んできたナショナリズムや台湾併合論の手前、台湾「独立」に何らかの武力行使をしなければガス抜きができない、という状況ではなさそうです。
 それ以上に驚かされるのは、これらの北京市民が実名で政府の見解と背馳する意見を堂々と述べていることです。
 中国共産党の「権威」も地に墜ちたものだ、という印象は拭えません。

4 所見

 私は、3で紹介したような状況からして、可能性は極めて低いとは思いますが、中国共産党が支那内陸部のナショナリズムのガス抜きを図るとともに、支那沿岸部の上述した精神状況の引き締めを図るためにも、(例えば金門・馬祖に侵攻するような形で)何らかの武力行使をする可能性を完全に排除することはできないと思っています。
 中台経済関係は、今年の輸出入総額が昨年の約400億ドルから大幅に増えて500億ドルを超えると見られており、台湾側の大幅な入超になっています。また、台湾の中共への投資額も対前年比20%以上の伸びが見込まれています(http://j.peopledaily.com.cn/2003/12/20/jp20031220_35153.html。12月21日アクセス)。
ちなみに、中共への投資の収益を台湾に送金することは禁じられています(典拠失念)。
このように中台経済関係は、中共側に有利な形で近年急速な進展を見せていますが、このことが中共が武力行使を思いとどまる決定的要因になるとは思いません。(台湾側は中共との経済断交には容易に踏み切れないでしょうし、仮に踏み切ったら中共に進出した台湾企業を没収してしまう手があります。)
台湾以外の世界の諸国が、中共と経済断交するようなことは、まずありえないでしょう。
問題は、武力行使は、どんなに限定的なものであっても、エスカレートしたり、他に飛び火したりする惧れがあることです。

 台湾海峡にただならぬ空気が漂っているというのに、いつものように、日本政府は知らぬ顔を決め込み、口を閉ざしています。台湾政府も半ばあきらめ、半ばあきれながら日本政府のこの様子を見守っています(http://www.taipeitimes.com/News/taiwan/archives/2003/12/19/2003084095。12月19日アクセス)。

(完)