太田述正コラム#0247(2004.2.2)
<台湾の法的地位>

1 中華人民共和国の主張

 (1)主張
最初に、中華人民共和国の主張をご紹介しましょう。

1943年に中華民国、米国、英国の3国はカイロ宣言を発表し、「右同盟國ノ目的ハ日本國ヨリ千九百十四年ノ第一次世界戰爭ノ開始以後ニ於テ日本國カ奪取シ又ハ占領シタル太平洋ニ於ケル一切ノ島嶼ヲ剥奪スルコト並ニ滿洲、臺灣及澎湖島ノ如キ日本國カ清國人ヨリ盗取シタル一切ノ地域ヲ中華民國ニ返還スルコトニ在リ」(http://list.room.ne.jp/~lawtext/1943Cairo.html。2月2日アクセス)と宣言した。
1945年のポツダム宣言第8項も「「カイロ」宣言ノ條項ハ履行セラルベク又日本國ノ主權ハ本州、北海道、九州及四國竝ニ吾等ノ決定スル諸小島ニ局限セラルベシ」(http://list.room.ne.jp/~lawtext/1945Potsdam.html。2月2日アクセス)としている。
そして、中華民国政府はポツダム宣言(カイロ宣言)の規定に基づき1945年10月25日に台湾、澎湖(ホウコ)諸島を接収し、台湾に対する主権を回復した。
そもそも、「清国人ヨリ盗取」した(カイロ宣言)ということは、日本に不法行為があったということであり、国際法上不法行為によって権利は取得できない以上、日本が敗戦後、「盗取」した東北地方(満州)と同様、台湾や澎湖諸島が(清国の継承国たる)中華民国に返還されるのは当たり前のことであって、日本との間の「平和条約」を締結を待つ必要はない。ローズベルト大統領自身、1943年12月24日にカイロ宣言の原則に触れて、「これらの原則は簡単で基本的なものであり、盗んだ財産は本来の主人に返還することが含まれる」と述べている。

 そして米国は、1950年1月5日にトルーマン大統領が「過去4年来、米国及び他の同盟国は中華民国が台湾に対して主権を行使していることを承認している」と述べ、同日アチソン国務長官も、「中華民国人民はすでに台湾を4年間統治しており、アメリカその他いずれの同盟国もその権力及び占領に対して何らの疑問を持ったこともない。台湾が中華民国の1省とされたとき、何人も法律上の疑義を提起したことはない」と述べ、更に同年2月には国務省が、台湾は1945年に日本が投降して以来中華民国によって管轄されており、「台湾はすでに中華民国の中で1省となった」とし、対日戦争に参加した同盟国がこれについて疑問を持っていないのは「明らかにカイロで行い、ポツダムで再確認したコミットメントに合致しているからである」、「換言すれば、米国をふくむ同盟国は、過去4年間台湾が中華民国の一部であると認識してきた」と指摘しており、中華民国と同じ主張だった。
(ちなみに、英国については、1949年11月21日に外務次官が、「カイロ宣言に基づき、中華民国当局は日本が投降した時に台湾に対する管轄を行い、それ以降一貫して管轄している」と述べ、また1951年4月11日に政府声明で、「台湾に関しては、英国政府は、カイロ宣言及びポツダム宣言の(台湾を中華民国に返還することを要求した)束縛を受けていると認識する」と述べている。)

以上から、中華民国及びその承継国たる中華人民共和国は、台湾に対して主権を有する。

 (2)波乱と決着
ところが、朝鮮戦争勃発を契機として、米国は突然自分の上記主張を変更した。
すなわちトルーマン大統領は、1950年6月27日に、「台湾の将来の地位の決定は、太平洋の安全が回復し、対日平和条約の署名または国連における考慮を待たなければならない」と述べ、更に、中華民国と中華人民共和国のどちらも排除したまま、米国は1951年に対日平和条約を結び、日本に対して「台湾及び澎湖諸島に対する一切の権利…を放棄する」ことのみを認めさせた。
米国は、カイロ及びポツダム宣言両宣言にいう「返還」とは法律的にまったく意味が異なる「放棄」という文言を対日平和条約で使用することによって、爾後、日本がこれらの地域を放棄した後は、これらの地域は他のいかなる国家にも移譲されておらず、「台湾の地位は未定」であると主張し始めたのだった。

しかし、この台湾の地位は「未定」という問題は、1972年の日中国交正常化によって最終的に決着がついた。日中共同声明において、日本は台湾が中華人民共和国の領土の不可分な一部であるという中華人民共和国の立場を「十分理解し,尊重し,ポツダム宣言第八項に基づく立場を堅持する」ことに同意した(http://www.panda.hello-net.info/data/seimei.htm。2月2日アクセス)からだ。

(以上、http://www.ne.jp/asahi/nd4m-asi/jiwen/china/file31.htm(2月2日アクセス)による。)

この中華人民共和国(中共)の主張が正しければ、いわゆる台湾問題は、中共の純粋な内政問題だ、ということになってしまいます。
それでは、米国の現在の主張はどのようなものなのでしょうか。

(続く)