太田述正コラム#0404(2004.7.8) 
<韓流・韓国・在日(続x3)>

 (前回のコラム#403の舌足らずな表現を補足して、ホームページに再掲載してあります。)

3 第一の疑問(コラム#401)をめぐって

 (1)疑問の再構成
 以上から、「韓国の文化の隆盛」と「韓国の政治・経済・社会の危機ないし歪み」の併存(コラム#401)、つまりは朝鮮半島の発展状況はバランスがとれていないという点は、現在だけでなく、李朝末期にもあてはまることが分かります。
日本による35年間の朝鮮半島統治は、李朝における政治の搾取性を日本自らが朝鮮半島の政治を担うことで解消し、これに伴って、政治の搾取性に由来する朝鮮半島の政治・経済・社会の危機ないし歪みも消滅しました。幸い、戦後の韓国においても政治の搾取性は基本的に復活することはありませんでした。それにもかかわらず、政治・経済・社会の危機ないし歪みは復活してしまったことになります。(北朝鮮のことは、話がややこしくなるので、触れないことにします。)
どうして、そんなことになったのでしょうか。
日本の統治は、朝鮮半島の政治・経済・社会の危機ないし歪みの直接的な原因である政治の搾取性こそ解消したけれども、根源的な問題点は解消できなかったのだ、と考えざるを得ません。
では、その根源的な問題点とは、一体何なのでしょうか。
 
 (2)根源的な問題点
  ア 俯瞰的考察
 最良の手がかりを与えてくれるのは、田中 明「韓国の民族意識と伝統」岩波現代文庫2003年(原著は1984年)です。例によってほんのちょっと私見を加味しつつ、朝鮮半島(韓国)における根源的問題点のあぶり出しを試みましょう。
 田中氏によれば、朝鮮半島(韓国)の根源的な問題点は、両班(やんばん)精神にあります。
 このことを踏まえ、まずは俯瞰的考察です。
 両班精神とは、李朝時代の支配階級の精神であり、「文を尊び武を卑しむ気風、激しいイデオロギー闘争、政敵との容赦ない闘い、それに実務軽視・・等々」(15頁)を特徴としていました。これは、アングロサクソン的スタンダードに合致した「戦前」の日本的精神である「文武両道を尊ぶ気風、事実と論理による議論、和の精神、それに実務重視・・等々」とは対照的な精神でした。
 戦後の韓国では、日本の朝鮮半島統治の間ずっと海外で独立運動に携わり、両班精神をそのまま抱き続けていた李承晩が、1948年から12年間もの長期にわたって大統領として君臨したことによって、「政治・経済・社会の危機ないし歪み」が復活してしまうのです。
 李政権は、ついに一度も経済計画を立てようとせず、このこともあって韓国の経済は低迷を続け、しかも防衛努力も怠ったため、北朝鮮に侮られ、北朝鮮が韓国併合のための朝鮮戦争を起こし、韓国民は塗炭の苦しみを味わいます。
 このような韓国の状況に危機意識を抱いていた旧日本帝国陸軍士官であった軍人朴正熙は、1961年にクーデターを起こし、1963年には大統領となり、爾来1993年までの30年有余にわたって、全斗煥、盧泰愚と日本的精神を身につけた軍人達の政権が続き、この間、日本との国交回復に伴う日本からの経済援助や日本との経済交流のおかげもあり、韓国経済は奇跡的な高度成長をとげるのです。
 他方、李承晩政権が路線を敷いた両班的教育の影響を強く受けた人々は野党に結集し、軍事政権批判を続けました。
 韓国が、またもおかしくなるのは、1993年に野党勢力が政権を奪取し、文民政権が復活してからです。
金泳三政権末期の1997年には韓国は未曾有の経済危機に直面します。その次の金大中の時代には韓国の国是を変更して北朝鮮に急接近し、2000年には大統領は賄賂を手みやげに北朝鮮を訪問しますが、その一方で在韓米軍と韓国との関係は悪化の一途をたどります。そして昨年からのノ・ムヒョン(盧武鉉)政権のダッチロールぶり、と続くわけです。
こうして、韓国に「政治・経済・社会の危機ないし歪み」が再び復活し、現在に至っているのです。
 (以上、http://www.l-o-a.net/history/president.html(7月9日アクセス)を参照した。)

(続く)