太田述正コラム#1417(2006.9.23)
<安倍晋三について(その2)>

3 本人

 (1)始めに
 晋三本人については、成蹊小・中・高校・大学という「地味な」学歴であること、米国の南カリフォルニア大学に「遊学」したこと、大臣の経験がないこと、が問題点として挙げられることが多いので、それぞれについて、簡単にコメントしてみましょう。

(2)学歴
 晋三が卒業した成蹊大学法学部は、代々木ゼミの最新の偏差値では56であり、政治家の家の三代目で外国に遊学したことがあるといった共通点があり、かつ晋三の自民党総裁前任者にしてメンターであるところの、小泉純一郎(1942年??)首相の卒業した慶應大学経済学部の偏差値66に比べても入学難易度がかなり低い(
http://www.yozemi.ac.jp/rank/gakubu/index.html。9月23日アクセス)ことは事実です。
 しかし、小泉首相の場合は公立高校から大学受験をして慶應に入ったのに対し、晋三の場合は、成蹊小学校からエスカレーター式に大学まで行っており、二人の学歴の単純な比較はできません。
 一般的に言えば、成蹊高校において、成績が上位3分の1くらいの生徒は積極的に他大学を受験し、真ん中の層が成蹊大学に進学し、成績が下位の生徒は成蹊大学に進学を許されず他大学に流れる、ということのようです(「有名私立中学首都圏版」KKベストセラーズ 1996年 218頁)。
 しかし、晋三があえて他大学を目指さなかった可能性もあります。ですから、晋三は成蹊高校、従ってまた恐らく成蹊大学でも成績は真ん中以上だった、ということは言えそうです。(成蹊大学の学部ごとの偏差値に差はほとんどない。)
 では晋三は、成蹊高校や成蹊大学でできの良い方だったのか真ん中くらいだったのでしょうか?
 これは分かりません。
 晋三が小学生か中学生の時に、当時東大生であった平沢勝栄(現衆議院議員)が彼の家庭教師をしているので、平沢には彼の潜在学力のほどは分かっているはずですが・・。
 とまれ、細川護煕以来、晋三まで8代続いて首相に私学出身者が就くことになったわけで、東大卒など絶えて久しいところに、日本の政治の世襲化のひずみが現れていると言えるのかもしれません(
http://www.mainichi-msn.co.jp/today/news/20060919k0000m010107000c.html
。9月18日アクセス)。

 (3)米国「遊学」
 小泉純一郎が過ごしたロンドン大学に比べれば、晋三が過ごした南カリフォルニア大学の入学難易度(どちらもundergraduate)は相当低そうですが、いずれにせよ二人とも、卒業したわけではなく、「遊学」しただけですから、そんなことは余り関係ないでしょう。
 なお、スタンフォード大学政治学科でundergraduateの科目もとってみた私の経験からすると、時間をいくらでもかけられるペーパー執筆で単位がとれるgraduate(大学院)に比べ、限られた時間で答案を作成しなければならないundergraduateの方が、語学にハンデのある日本人にとっては難しいとも言える(注5)のであって、南カリフォルニア大学の政治学科を卒業できなかった晋三が無能であったとか遊んでいたとかは必ずしも言えないと思います。

 (注5)理工系や経済・経営系の学科であれば、それほど日本語はハンデにならないので、当然のことながら、大学院の方が単位取得は難しい。なお、米国の場合、大学院は日本の大学の3??4年並、undergraduateは日本の大学の1??2年(つまり、教養課程)並、のレベルと考えればよい。
 
 そんなことよりも、どれだけ海外経験を肥やしにできたか、あるいはどれだけ英語力を身につけることができたか、が問題です。
早晩、そのあたりは晋三首相の言動を通じて明らかになることでしょう。
 
 (4)政治家としてのキャリア
 晋三は、大臣の経験がないとは言っても、大臣を束ねる役割である官房長官を勤めており、かつ党の幹事長まで経験しており、厚生大臣2回、郵政大臣1回だけで幹事長経験もなくて首相になった小泉純一郎と比べてキャリア的に決して遜色はありません。
 政治家は、大臣などを勤めなくても、政策を勉強する機会はいくらでもあるのですから、問題は本人がどれだけ政策を勉強したかです。
 ただ、ほとんど政策を勉強しなまま首相になった小泉純一郎(注6)が、「立派に」首相を勤め上げたことからすれば、そんなこともまた、どうでもいいのかもしれませんね。
(以上、特に断っていない限り
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%AE%89%E5%80%8D%E6%99%8B%E4%B8%89
(9月22日アクセス)、
http://www.kyudan.com/opinion/abesinnzo.htm
(9月23日アクセス)による。)

 (注6)小泉が首相になる直前、小泉の「盟友」山崎拓はオフレコで新聞記者達に、「いいか、君たちびっくりするぞ。30年も国会議員やっているのに、彼は政策のことをほとんど知らん。驚くべき無知ですよ」と語ったという。なお、小泉が首相になった直後、私自身があるパーティーで、同じ山崎拓が、小泉の安全保障への無関心ぶりを語ったのを聞いた話は以前(コラム#226で)記したところだ。

(続く)